「福島が日本にあってよかった」藻谷浩介氏が語る福島の農業とエネルギーのポテンシャル
食もエネルギーも、福島にあり。人気エコノミストの藻谷浩介氏が福島県を取材。復興にかけるその姿と農業・エネルギーのポテンシャルについて語った。
――10月23日に行われた「藻谷浩介と行く『食の福島』ツアー」(NPO法人「ComPus」主催)では、福島県のコメの全量全袋検査の現場を視察しました。
藻谷浩介:視察した「あいづ農業協同組合」では、作業をする方々の真面目さ、コメに対する尊敬の念が顔に出ていました。30kgの米袋を空港の荷物検査のように(装置に)通すのですが、少しでも疑いがあると精密検査を延々と行う。その数は福島県全体で約1000万袋にも及びます。百聞は一見にしかずで、人さまの口に入るコメをものすごい速さで、しかも心を込めて作業されていました。
それを見れば、福島の食材に対する見方が180度変わります。「ああいう真面目な人たちがやっているから大丈夫だ」という信頼感が湧いてくるのです。改めて「福島の人は真面目で誠実で、そしてアピールが下手」ということがわかりました。だけれども、背中から滲み出る誠実さが我々を説得するのです。
福島は食材の都です。震災前はコメの収穫量が全国4位。震災の年でも7位でした。今年は1000万袋中500万袋の検査がすでに終了しました。放射能が(基準値の)100ベクレルを超えるものはゼロで、50ベクレルを超える袋もゼロ。設定基準の半分に達するものも出ていないのです。
――福島県農業総合センターではセシウム対策についての説明がありました。「似たような性質のカリウム(3大肥料成分の1つ)を撒くと、農産物へのセシウム吸収が抑制されるということがわかり、農家にカリウム散布を指導した結果、基準値を超えるコメはゼロになった」ということでした。
藻谷:大変な原発事故が起きて放射能汚染が広がってしまいました。しかし、農家の方々がカリウムを撒いたり作ったコメを全数調べたりして、努力を続けている。「食べ物を粗末にしてはいけない」という福島県民の方々の気持ちが、地元農産物を安全にしていることを僕らは知るべきだと思います。
――福島の農業とエネルギーのポテンシャルをどう見られていますか。
藻谷:福島のエネルギーは、東京電力をはじめとした東京資本に開発されて、そのエネルギーは東京に行ってしまっています。しかし(福島と新潟の県境の)奥只見の水力発電の電気だけでも福島に回せば、それだけでも自然エネルギーの割合は高くなります。
風力も、福島のところでちょうど奥羽山脈が低くなっていて、風の通り道になってポテンシャルが高い。地熱もまだまだできるところがたくさんあります。森林資源も豊富ですし、間伐材利用や木質バイオマスの潜在能力もものすごい。
我々はこれまで、福島に多くのエネルギーを頼り、食糧を頼ってきました。それを思い知ったのがこのたびの原発事故でした。
「日本に福島があってよかった」。本当にそう思います。
福島の農家の努力と、豊富な自然エネルギー資源。11/10発売の週刊SPA!掲載のインタビューでは、藻谷浩介氏が今後の福島の可能性についてさらに深く考察している。 <取材・文/横田 一>
【藻谷浩介氏】
1964年山口県生まれ。東京大学法学部卒業。日本政策投資銀行を経て現在、日本総合研究所主席研究員、NPO法人 ComPus-地域経営支援ネットワーク 理事長。銀行マン時代から各地で年間300回以上講演。『デフレの正体』『里山資本主義』はともにベストセラーとなった
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