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チリで迫害を受け来日した料理人、二度目の難民申請が却下。入管法改正案がさらに追い詰める

ペニャさんは右派政治家や極右勢力に狙われていた

昨年4月、チリでの迫害でほとんど聞こえなくなった耳を医療支援団体のおかげで治療することができた

昨年4月、チリでの迫害でほとんど聞こえなくなった耳を医療支援団体のおかげで治療することができた

 1973年のピノチェトによるクーデターの際、ペニャさんの父親は軍部による左派狩りに協力させられた。1990年の民主化後、父親が虐殺について証言すると、極右からは裏切者と、極左からは虐殺者の仲間とみなされ、一家全員が迫害の標的にされて家族は離散。ひっそりと暮らしていたペニャさんが料理人として有名になると、その居場所をつきとめられて1992年に首都サンティアゴで拉致・誘拐、命にかかわるほどの暴力を振るわれたという。  そこで、ペニャさんを支援している団体「SYI」(収容者友人有志一同)の柏崎正憲さんに、現在のチリの情勢とペニャさんが母国で受けた迫害について聞いてみた。 「ペニャさんの迫害は過去の話ではない。彼を標的にする極右『祖国と自由』は現在も活動しているからだ。しかも2009年に大統領になったピニェラは、かつてのピノチェト軍事独裁政権の流れをくむ。政府自体はペニャさんを公然と狙うことはないが、右派の政治家は極右とつながっている。  2019年に始まったピニェラ政権反対と憲法改正の大規模デモの際には、実際に極右団体が表に出てきた。彼らは警察とともに市民を暴力で弾圧したり、政権に批判的な要人を脅迫したりした。2021年には憲法改正が国民投票で可決され、左派のボリッチが大統領に選ばれた。しかし新憲法案は右派の抵抗にあって否決されたし、右派政治家や極右団体の影響力はまだ強いという。  ピニェラ政権反対デモが起きている間、ペニャさんはSNSで政権を批判した。そのことも難民申請の理由の一つとして入管に伝えていた。しかし入管は、ペニャさんが港区のチリ大使館でパスポートを『何ら問題なく』発給されたことをあげつらって、ペニャさんは難民の基準に該当しないと言い放った。しかし大使館はペニャさんを迫害する勢力とは関係がないし、大使館とコンタクトをとったからといって難民ではないことにはならない」  「難民が自国からパスポートをとってはいけないのなら、どこからパスポートをとればいいのか」と、ペニャさんは憤る。仮放免者は身分を証明するものがないので、パスポートを更新するのは何ら不思議なことではない。

東日本大震災で保証人を失い、在留資格も失う

付き添った友人たちは改めてペニャさんと一緒にがんばると誓う

付き添った友人たちは改めて「ペニャさんと一緒にがんばる」と誓う

 迫害を受けた後、ペニャさんはチリを逃れてしばらくヨーロッパで暮らしていた。そこで出会った日本人と意気投合し、料理人として日本にある自分の店を手伝ってほしいと言われた。そして1996年1月に技能ビザで来日し、その店で働き始めた。ところが新たな店に移転するとき、保証人になってくれるはずの人が3.11東日本大震災で海外に避難してしまい、保証人となってくれる人がいなくなった。入管にその件を相談したが、「保証人になってくれる人を探してください」と言われるだけだった。この件でペニャさんは在留資格を失い、その後の運命を狂わせることになった。  27年も日本で暮らしていたが15年目に在留資格を失った。今に至るまで11年以上も仮放免の状態で、二度の収容経験を持つ。「疲れた……」と漏らすその小さな声はとても痛々しい。  二度目の難民申請がダメになった今、異議申立て(審査請求)をするための手続きをする。しかしそれすらも、なかなか良い結果が出るものではない。どうか心ある難民審査参与員に当たってほしいものだ。  ペニャさんの担当を務めている、駒井知会弁護士に話を聞いてみた。 「出身国情報と彼の供述は一致しており、彼が極めて強度の迫害の犠牲になった人であることは間違いないと考えています。万一、法務大臣が難民認定できなかったとしても、このケースで人道配慮に基づく在留特別許可さえ与えなかったことにはまったく納得がいきません。  これだけ長期間にわたって日本社会に根づき、多くの日本市民に愛され、レストランで腕を振るうことを生き甲斐にしてきたシェフから自己実現の機会を奪い、あまつさえ無期限収容までしてその尊厳を傷つけ続けてきたことに、強い怒りを覚えます。彼が在留資格を得られる日まで力を尽くしたいと思います」
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二度目の難民申請が却下された人々を追い詰める「入管法改正案」
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おだあさひ●Twitter ID:@freeasahi。外国人支援団体「編む夢企画」主宰。著書に『となりの難民――日本が認めない99%の人たちのSOS』(旬報社)、入管収容所の実態をマンガで描いた『ある日の入管』(扶桑社)

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