更新日:2024年03月24日 15:52
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寝ない人は短命!? アリの生態には「働き方を見なおして幸せになるヒント」がつまっていた

働いていないハキリアリは全体のわずか1~2%

 これらは、北海道大学の長谷川英祐博士が「シワクシケアリ」を対象に行動観察を行い明らかにした事実なのだが、日本人はこのエピソードが本当に大好きだ。マネジメント論として語られたり、あるいは働かない言い訳としても引き合いに出される。  ただ、この「2:6:2」の法則が1万5000種を超える、すべてのアリに当てはまるわけではないことは、前著『アリ語で寝言を言いました』でもかなり力を込めて説明した。  観察対象となったシワクシケアリは極めて平均的なアリで、個体サイズもコロニーの大きさも、社会構造もごくごく「フツー」なアリだ。  ハキリアリはよく働く。労働は細分化されていて、僕が調べた限りでは30もの仕事があり、それがシステマチックに分業されている。  働いていないのは全体のわずか1~2%。それは蛹から出たばかりの個体で、働かないというよりは「働けない」だけである。  全員が24時間、仮眠をとる程度の休息しかせず、働き続けている。まるで、バブル期のサラリーマンのようだ。そして、たった3か月で死んでしまう。ヒトにたとえたら、一人前の働き手となったらがむしゃらに働き短命で終わる、過労死のようにも見えるかもしれない。

どちらの社会に幸せを感じるか?

働かないアリ過労死するアリ

著者・村上貴弘氏

 しかし、ハキリアリのコロニー全体の寿命(≒女王アリの寿命)は10~15年。最長で20年ととても長い。短命の働きアリが膨大な数存在することで巨大なコロニーがこんなにも長期間維持される。  他方で、ハキリアリと同じキノコアリの仲間でも、起源に近いムカシキノコアリ(ハナビロキノコアリ)だと「まったく働かないアリ」の割合は30%にものぼる。観察していると、ほとんど動いていない印象だ。ただ、ちゃんとキノコ畑は維持できている。  幼虫はキノコ畑に埋もれていて、体表面に生えた菌糸のうち自分の口まで生えてきたものを自分で食べる。  働きアリたちはほとんど幼虫のお世話をしない。これは唯一例外的に子育てをしない真社会性昆虫と言っていいだろう。おそらく、幼虫の世話がキノコ畑の世話に置き換わってしまったものと僕は推測している。  過労死するアリが支える超巨大社会と、ゆっくりのんびり自由に、適当にサボりながら全員が長生きする小さな社会、どちらもこの地球上の仕組みとしては適応的だ。さて、僕らはいったいどっちに幸せを感じるだろうか?  僕自身が共感するのは、やっぱりムカシキノコアリのほうだ。みんな自由でサボりながら長生きする社会がいいなぁ。 文/村上貴弘 構成/週刊SPA!編集部
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働かないアリ 過労死するアリ 〜ヒト社会が幸せになるヒント〜 働かないアリ 過労死するアリ 〜ヒト社会が幸せになるヒント〜

アリ語を研究する「アリ先生」による
面白すぎるアリの世界

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