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母親を“陰謀論で失った”製薬会社に勤務する30代男性の告白。「それまで頑張り屋だった母が…」

陰謀論やデマが流行る背景と反ワクチン論者への理解

ぺんたんさんは、こういった陰謀論やデマを信じる人たちを「安易な人たち」と切り捨てるが、同時に反ワクチン論者を「情報弱者」と切り捨てる側も根本は同じだと考える。 「権威があったりきちんとした根拠を大切にする人ほど、言い切りませんよね。中庸なことしか言えなくなります。だけど、人は中庸な状態に耐えられるほど強くないんだと思います。私だって、どっちつかずの曖昧な状態に耐えるのは嫌です。日本政府もWHOも分からないので、うがい・手洗いをしましょうと言っているような状態の時に、これは中国の細菌兵器だと言ってくれる人の話は気持ちよかったんだと思います」 だが、この心境は、母とのことがあったからたどり着いた境地だ。 「人生だって、年を取ればとるほど、分からないことは増えていきますよね。言い切れることのほうが少なくなっていく。人間って、白か黒かはっきりした方がスッキリするから、偽物でも言い切ってくれる人の言葉に安心するんだと思います」 そして、反ワクチン論者を情弱だと否定する人たちに対しても、「安易な人たち」だという。 「“エビデンスも知らない情弱どもめ” と馬鹿にする人たちも、なぜその人たちが医療不信になってしまったのかなど考えていないですよね。そういった複雑なストーリーを無視して、“情弱” だと断ち切ってしまうのもまた安易ですよね」 ぺんたんさんと母の話は、新型コロナワクチンの問題だ。母が根拠のない陰謀論にハマったように、スピリチュアルや新興宗教にすがるのも、確信を求める心理だろう。曖昧さを受け入れるのは誰にとっても苦しく、「自分は絶対に陰謀論なんて信じない」と言い切るのは、ただの驕りなのではないか。

母親を陰謀論で失った』(KADOKAWA)©ぺんたん、まきりえこ

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立教大学卒経済学部経営学科卒。「あいである広場」の編集長兼ライターとして、主に介護・障害福祉・医療・少数民族など、社会的マイノリティの当事者・支援者の取材記事を執筆。現在、介護・福祉メディアで連載や集英社オンラインに寄稿している。X(旧ツイッター):@Thepowerofdive1

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