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「尖閣に一夜城を」 寄贈を願い出た社長の思い

尖閣

中嶋氏が東京都に宛てた「詰所」寄贈の提案書。設置希望日は、真珠湾攻撃の日でもある「12月8日」と書いてある

 国と東京都の間で、尖閣諸島の購入を巡ってすったもんだが繰り広げられていたが、政府は今月10日に閣議を開き、尖閣諸島のうち地権者が所有する魚釣島、北小島、南小島について、「20億5000万円」の予算を用意し、正式な国有化に向け閣議決定をする方向で調整に入った。

 一方、国に物申すの姿勢で尖閣購入にいち早く名乗りを上げていた石原都知事は、島の最終的な国有化を後押ししていたにもかかわらず、ここにきて難色を示し始めている。東京都が全国から募った「14億6000万円」を超える寄付金について、6日の会見では「あれ(政府への譲渡)はダメ。献金した人と約束したので」と、最後の最後で政府が頭越しに売却話を進めた“非礼”に、態度を硬化させているようにも見受けられるのだ。

 かねてから、尖閣諸島購入後「避難港の設置などを速やかに行うべき」と訴えてきた石原知事に対し、政府は「平穏かつ安定的な維持管理」をするためには、施設の整備は中国側を刺激するとして「行うつもりはない」としているため両者の溝は深まるばかりだが、たとえ早期国有化が実現しても、領海警備法の整備など離島防衛の手立てがまったく手つかずの今の状態では、「実効支配している」とは到底言い難い半ば丸腰の状況がこれから先も続くということだ。

「中国が本気で動き始めたら、もはや取り返しがつかない事態になると思います。一旦強引にでも奪い取られてしまったら、竹島のように日本は再び泣き寝入りすることになりかねない……。だから、避難港とは言わず、漁民のための休憩所、いや、自衛隊員のみなさんの詰所を一刻も早く設置すべきだと私は思います」

 こう熱っぽく語るのは、今年6月、石原知事の掛け声で始まった尖閣購入募金に、鉄筋コンクリート造の2階建て詰所「尖閣の一夜城」を寄贈しようと手を上げた、百年住宅西日本の代表・中嶋文雄氏(67歳)だ。

 写真にある東京都に宛てた提案書の表紙には、尖閣沖の海を背景にリゾート住宅さながらの白亜の建物が描かれており、平面図の3階屋根部分には上空から確認できるよう床一面に日の丸がプリントされている。さらに、計画案の概要を紐解くと総面積は「51坪」。「工場生産プレキャスト鉄筋コンクリート造組立工法」によりあらかじめ組み立てられた住宅を、全長106mの輸送船舶で運搬。魚釣島到着後は、なんと工期「1日間」ですべて設置完了できるという壮大な建設計画がしたためられているのだ。

「売名行為と取られたくないのでお値段については言えませんが、ここ数年の日本政府の対応を見るにつけ切歯扼腕の思いでいっぱいになり、一民間企業であっても何か国のために協力できることはないのかと考えた結果、このような提案をさせてもらったのです。石原都知事が『自分の国は自分で守るんだ!』と声を上げてくれたことにも後押しされました」

 実は、この「尖閣の一夜城」を寄贈しようと思い立ったのは、昨年起きた東日本大震災もひとつのきっかけになったという。

「昨年、東日本大震災が起きたとき、今自分に何ができるのかをよくよく考えました。阪神淡路大震災のときはお金というかたちで積極的に寄付をさせてもらったのですが、今回は、実際に自分自身で汗をかきたいと思った……。自ずと、自分が生業にしてきた『家を建てること』で被災地のために役に立ちたいと考えるに至ったんです」

 中嶋氏は、震災後‘11年5月から福島、岩手、宮城の三県に入り、“オリジナル”の応急仮設住宅をわずか21日間で計96戸設置した。

「被災地の方が心から望んでいることは何か? そう考えたとき、隣り合わせの部屋から音が筒抜けで聞こえるような、安価な塗炭で仕切った応急仮設住宅ではなく、強い風や嵐にも耐えられ、津波に流される心配もない鉄筋コンクリート組立造の仮設住宅を作れないものかと考えるようになったのです。ただ、鉄筋コンクリートは正直時間がかかる……。スピード感を持って設置できるような家でなければ被災された方々のためにならない。そこで、『尖閣の一夜城』の原型となる応急仮設住宅を作ったのです」

 中嶋氏により設置された仮設住宅は、被災地の人たちからもおおむね好評で、その後評判を聞きつけた東京消防庁が、大規模災害に備え視察に訪れたほどだった。自信を得た中嶋氏は、この技術をより多くの人たちの役に立てたいという思いから、尖閣諸島に設置するための自衛隊の詰所として、東京都に寄贈の提案をするに至ったという。

「実は菅政権のときにも、詰所を設置させてもらえないかと上陸申請は出していたんですが、案の定返事は梨のつぶてでした。連日、他国の船が領海侵犯を繰り返していても、民主党政権でいる限り寄贈は実現しないのだろう……そう思っていました。ところが、その後石原都知事が島の購入を打ち出した。私はすぐに提案書にまとめて知事宛てに送りました」

 しかし、中嶋氏の思いとは裏腹に、尖閣国有化は直接国が行うということで決着しそうな気配だ。寄付はしたけれども国が買うなら話は別だ! とばかりに、寄付金の返却を求めて、現在東京都には説明を求める電話が多数寄せられているというが、中嶋氏もまた「早期の国有化は賛成ですが、今の政府が買うということに対しては強い不信感を持っています」という。

「今の政権は、すでに死に体と化しており正直アテにならなりません。すでに中国政府におもねって、避難港の設置などもしない方針を示していますし……。私個人は、たとえ売却先が国に変わっても、『尖閣の一夜城』寄贈の提案を引き上げるつもりはありませんが、もし東京都が買ってくれていたら、早急に設置を行っていた可能性もあるので残念です」

14億6000万円という額ではない。日本の領土を守るために自分に何ができるのか? そんな一人一人の思いを、現政権は受けとめられるのだろうか。 <取材・文/山崎元(本誌)>




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