リオ最大の“スラム街”住民が語る「マフィアとの良好な関係」
W杯に先立つ数か月前。NGOが主宰するファベーラツアーで、リオデジャネイロにある最大のファベーラ「ホシーニャ」を訪れた記者。ガイド役を務めるのは、まさにそこに住むまだ10代の若い女性。ファベーラの中でも、ホシーニャは住みたい人も多く、家賃も意外に高い地域だといい、みすぼらしい古屋でも数千万円で売買されるという。なぜ、ファベーラに住みたがる人がいるのか。彼女が口にした答えとは? そして、彼女が語る「マフィアと一般住民の関係」とは? 注目の後編。
⇒【前編】『リオ最大の“スラム街”ホシーニャに住居希望者が殺到!?』
https://nikkan-spa.jp/660611 ホシーニャに関しては、住みたい人も多く、家賃も意外に高い。みすぼらしい古屋でも数千万円で売買されるという。なぜ、ファベーラに住みたがる人がいるのか。現地在住の女性ガイドに問うと、彼女はこう答えた。 「なんといってもここは無税! 住民はもちろん、ホシーニャには飲食店や雑貨屋、コンビニ、美容院、ディスコなど2000軒以上のお店があるけど、みんな税金を払ってないわ。これが大きな魅力。あと、マフィアたちは麻薬売買で得た犯罪収益金をファベーラのインフラ整備や子供たちの教育に回してくれる。それで大学に行く子供たちもいる。マフィアは、中古のDJ機材やサーフボードを子どもたちに提供し、犯罪以外の道に進むような試みもしている」 ガイドの話を聞く限り、ファベーラ住民はマフィアを肯定的に捉えているようだ。では、ホシーニャにいる麻薬組織とはどんなものか、彼女はしきりに「安全だ」と言うが、それはマフィアがしっかり“シマ”を守っているからだ。 「ホシーニャを支配しているのはマフィアだけど、とても組織化されたビジネスを行っており、街中でのいざこざや銃撃戦は許されない。街のルールを破った者は始末される。例えば1年ほど前、ホシーニャに住む少女たちを何人もレイプした男がいたけど、そいつは処刑場(決まった場所がある)でタイヤを被せられ、焼き殺された。わざわざタイヤを使うのは、もうもうと上がる黒煙が見せしめになるから」 ただし、大規模な麻薬売買が行われている以上、警察も摘発しないわけにはいかない。ホシーニャでも2年前に当局が大規模な掃討作戦を行い、マフィアのボスが逮捕されたという(懲役30年)。警察の掃討作戦は、事件などをきっかけに定期的に行われるというが、「恒例行事のようなもの」とガイドは言い、口ぶりからはある程度、当局との暗黙の了解があるように思えた。 「プッシャー(売人)はここでドラッグを仕入れ、リオ市内のビーチやクラブに売りに行く。ただ子供たちには売らない。子供が買いに来たら、マフィアは殴って帰らせるの。それくらい組織の統制が効いている。数年前、面白い出来事があったわ。リオの高級住宅地に住んでる金持ちの美しい娘が、ドラッグを買いに来た。彼女は自分の美貌を武器に、マフィア相手に何度もツケでドラッグを買ってたの。でも、5回目くらいで『いい加減にしろ』とマフィアに撃ち殺された。世間知らずだったのね」 ガイドは笑い話のように言った。2時間ほど説明を聞きながらファベーラを歩き、麓のほうまで下りてきた。麓ではマシンガンで警備にあたる警察官を尻目に、怪しいおじさんがよってきて「大麻いる?」と聞かれたのはご愛嬌、そのままツアー一行は食堂に入り、ブラジル名物「ポルキロ」(計り売りのブッフェスタイル)を食べて解散となった。 ファベーラツアー業者はリオデジャネイロに乱立しており、少なくともホシーニャの場合、昼間、ガイド付随で行くぶんには危険は少ないと強調する。ガイドと一緒にいれば、写真撮影をしていても咎められることはない。ただ見学するファベーラの出身者がガイドでない場合、トラブルが起こることもあるという。またツアーに参加せず、自力でファベーラに行くのも要注意。過去、アメリカ人観光客が単独で行き、写真撮影していたら発砲されたという事件も起こっている。 ともあれ、この女性ガイドからは、ファベーラで暮らす人々の独特の連帯感と価値観が強く感じられた。そこには単純な善悪を超えたリアルな“掟”がある。今回のワールドカップでは、複数の日本人渡航者がすでに強盗被害に遭っており、現地日本大使館は「ファベーラには近寄るな」と警告する。いまだに銃撃戦が絶えない危険なファベーラがある一方、観光客が見て回れる安全なファベーラもある。興味のある方は自己責任でどうぞ。 <文・写真/バーナード・コン(本誌特約)>
https://nikkan-spa.jp/660611 ホシーニャに関しては、住みたい人も多く、家賃も意外に高い。みすぼらしい古屋でも数千万円で売買されるという。なぜ、ファベーラに住みたがる人がいるのか。現地在住の女性ガイドに問うと、彼女はこう答えた。 「なんといってもここは無税! 住民はもちろん、ホシーニャには飲食店や雑貨屋、コンビニ、美容院、ディスコなど2000軒以上のお店があるけど、みんな税金を払ってないわ。これが大きな魅力。あと、マフィアたちは麻薬売買で得た犯罪収益金をファベーラのインフラ整備や子供たちの教育に回してくれる。それで大学に行く子供たちもいる。マフィアは、中古のDJ機材やサーフボードを子どもたちに提供し、犯罪以外の道に進むような試みもしている」 ガイドの話を聞く限り、ファベーラ住民はマフィアを肯定的に捉えているようだ。では、ホシーニャにいる麻薬組織とはどんなものか、彼女はしきりに「安全だ」と言うが、それはマフィアがしっかり“シマ”を守っているからだ。 「ホシーニャを支配しているのはマフィアだけど、とても組織化されたビジネスを行っており、街中でのいざこざや銃撃戦は許されない。街のルールを破った者は始末される。例えば1年ほど前、ホシーニャに住む少女たちを何人もレイプした男がいたけど、そいつは処刑場(決まった場所がある)でタイヤを被せられ、焼き殺された。わざわざタイヤを使うのは、もうもうと上がる黒煙が見せしめになるから」 ただし、大規模な麻薬売買が行われている以上、警察も摘発しないわけにはいかない。ホシーニャでも2年前に当局が大規模な掃討作戦を行い、マフィアのボスが逮捕されたという(懲役30年)。警察の掃討作戦は、事件などをきっかけに定期的に行われるというが、「恒例行事のようなもの」とガイドは言い、口ぶりからはある程度、当局との暗黙の了解があるように思えた。 「プッシャー(売人)はここでドラッグを仕入れ、リオ市内のビーチやクラブに売りに行く。ただ子供たちには売らない。子供が買いに来たら、マフィアは殴って帰らせるの。それくらい組織の統制が効いている。数年前、面白い出来事があったわ。リオの高級住宅地に住んでる金持ちの美しい娘が、ドラッグを買いに来た。彼女は自分の美貌を武器に、マフィア相手に何度もツケでドラッグを買ってたの。でも、5回目くらいで『いい加減にしろ』とマフィアに撃ち殺された。世間知らずだったのね」 ガイドは笑い話のように言った。2時間ほど説明を聞きながらファベーラを歩き、麓のほうまで下りてきた。麓ではマシンガンで警備にあたる警察官を尻目に、怪しいおじさんがよってきて「大麻いる?」と聞かれたのはご愛嬌、そのままツアー一行は食堂に入り、ブラジル名物「ポルキロ」(計り売りのブッフェスタイル)を食べて解散となった。 ファベーラツアー業者はリオデジャネイロに乱立しており、少なくともホシーニャの場合、昼間、ガイド付随で行くぶんには危険は少ないと強調する。ガイドと一緒にいれば、写真撮影をしていても咎められることはない。ただ見学するファベーラの出身者がガイドでない場合、トラブルが起こることもあるという。またツアーに参加せず、自力でファベーラに行くのも要注意。過去、アメリカ人観光客が単独で行き、写真撮影していたら発砲されたという事件も起こっている。 ともあれ、この女性ガイドからは、ファベーラで暮らす人々の独特の連帯感と価値観が強く感じられた。そこには単純な善悪を超えたリアルな“掟”がある。今回のワールドカップでは、複数の日本人渡航者がすでに強盗被害に遭っており、現地日本大使館は「ファベーラには近寄るな」と警告する。いまだに銃撃戦が絶えない危険なファベーラがある一方、観光客が見て回れる安全なファベーラもある。興味のある方は自己責任でどうぞ。 <文・写真/バーナード・コン(本誌特約)>
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