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政府主導の「中国サッカー改革」は成功するのか?

 覇権国家を目指す習近平政権が、新たな“戦力増強”を指示した。といっても軍事ではなく、サッカーの話である。
中国

中国プロサッカーリーグ「広州恒大」のサッカースクール入校式の様子

 3月16日、中国国務院は国内サッカーのレベル底上げと、中国W杯開催を目的とする「中国サッカー改革・発展総体プラン」を公布。代表チーム強化策のほか、プロ選手の年俸や移籍金の高騰防止、八百長撲滅などを掲げている。  また、’25年までに全国5万の小中学校にサッカー場を併設し、義務教育の科目のひとつとすることも盛り込まれており、逸材の早期発掘も目指す予定だ。さらに『南方都市報』によれば、サッカーを大学入試の試験科目にする案まで浮上しているという。  一連のサッカー改革について、サッカーファンで上海市在住の旅行会社勤務・向井典明さん(仮名・40歳)はこう評価する。 「南米ではスラムからスター選手が何人も出ているが、草の根レベルにまでサッカーが普及していなかった中国では、プロに上がれるのはスクールで専門の指導を受けた選手がほとんど。また、強化選手に選ばれるために賄賂が必要なこともあり、下流層出身の才能を潰してきた。政府が主導する改革で、そんな“サッカー格差”が是正されれば強くなるはず」  現在、FIFAランキングで中国は83位と、日本(53位)や韓国(56位)に大きく水をあけられている。だが、政府主導のサッカー改革で日本のライバルとなる日は近いと予見する日本人もいる。Jリーグを経て、中国スーパーリーグ「深セン紅鑽」で活躍し、現在は深セン市で「TCF楽山サッカー塾」を運営する楽山孝志氏はこう予測する。 「中国サッカーはビジネス的にも政府のバックアップのもとで成長しつつあり、米サッカーのように短期間で成長を遂げる可能性が高い。すでに若手の有望株も多数出てきており、’18年の次期W杯アジア予選では、韓国やオーストラリアと並んで、日本代表を脅かす存在になるでしょう」  一方で課題も残る。国際社会から“少林サッカー”と揶揄されてきた中国サッカーの悪しき風習が、次世代に継承されつつあるのだ。 「小学生のゲームでも、相手の脚を狙ったようなスライディングや、ケガをさせてしまうプレーが目立つ。これは中国のプロ選手のラフプレーが影響しているのかもしれない。またサポーターのマナーも問題が残る。私の現役時代、試合中に相手サポーターが傘を投げ込んだり、相手チームのバスをサポーターが通行止めにしてしまうこともあった。今も状況は変わってないですね」(楽山氏)  楽山氏は、中国が真のサッカー先進国となるためには、まず「ピッチ内外での秩序と規律の徹底」が必要だと話す。  また、中国特有の政治風土による問題もある。中国在住フリーライターの吉井透氏が話す。 「この改革は、サッカー好きで知られる習近平主席の鶴の一声で進められているが、中国では政権が代われば前政権のカラーが一新され、政策も反故になるのが常。彼の残りの任期7年が、中国サッカーに残された成長の“タイムリミット”かもしれません」  規律引き締めや経済成長を強引に推進してきた一党独裁体制は、サッカーではどれだけ通用する!? <取材・文/奥窪優木> 週刊SPA!連載 【中華人民毒報】 行くのはコワいけど覗き見したい――驚愕情報を現地から即出し
1980年、愛媛県生まれ。上智大学経済学部卒。ニューヨーク市立大学中退後、中国に渡り、医療や知的財産権関連の社会問題を中心に現地取材を行う。2008年に帰国後は、週刊誌や月刊誌などに寄稿しながら、「国家の政策や国際的事象が末端の生活者やアングラ社会に与える影響」をテーマに地道な取材活動を行っている。2016年に他に先駆けて『週刊SPA!』誌上で問題提起した「外国人による公的医療保険の悪用問題」は国会でも議論の対象となり、健康保険法等の改正につながった。著書に『中国「猛毒食品」に殺される』(扶桑社刊)など。最新刊『ルポ 新型コロナ詐欺 ~経済対策200兆円に巣食う正体~』(扶桑社刊)発売

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