“インディー野郎”サブゥーが目撃したメジャー団体の景色――フミ斎藤のプロレス読本#084【サブゥー編エピソード4】
―[フミ斎藤のプロレス読本]―
199X年
ニュージャパン・プロレスリング(新日本プロレス)のメジャーリーグっぽさは、ちょうどブランド品の箱を開けたときにふんわりとただよってくる新しいものの匂いみたいだった。
サブゥーは、後楽園ホールのある青いビルの2階のチャイニーズ・レストランの宴会ルームにいた。遠くのほうではチャンピオンのハシモート(橋本真也)とケンスキー・ササキ(佐々木健介)がスーツ姿で乾杯の音頭をとっていた。
東京ドームのビッグショーのあとにこんな大きな打ち上げパーティーがあるなんてはなしは、ついさっき聞いたばかりだった。
サブゥーはこういうパーティーはあまり得意ではない。だから、タキシードとかスーツとかちゃんとした服は一着も持っていない。どこへ行くときもベースボール・キャップを後ろまえにかぶって出かけていくだけだ。ニュージャパンのボーイズは、試合を終えたばかりだというのにみんなきちっとスーツを着てネクタイを締めている。
いつでもそおっとフェードアウトできるように入り口のドアのすぐそばに立っていると、5メートルも先からリキ・チョーシュー(長州力)がニコニコしながら近づいてきた。
サブゥーは、ニュージャパンのバックステージではチョーシューがボスなのだということを知っていた。チョーシューは「きょうはサンキューな」といって握手を求めてきた。
ヘイ、ウェイト・ア・ファッキン・ミニットHey,Wait a fucking minute(えっ、ちょっと待てよ)。チョーシューはベビーフェースで、サブゥーはヒール。相手はジャパニーズで、こっちはガイジン。こんなところでにこやかに立ち話をしちゃっていいのだろうか。
まわりには人がたくさんいる。レスラーだけでなく、スタッフや関係者もいれば、どうみたってただのファンという集団もいる。サブゥーはすっかり混乱してしまった。
チョーシューはナイスガイだった。パーティー会場をぐるっと見わたすと、あっちでもこっちでも会話の輪ができていた。アントニオ猪木がオランダ人の空手家とおしゃべりをしている。アニマル・ウォリアーとジャパニーズ・ボーイズが楽しそうに談笑している。
サブゥーのよこではホーク・ウォリアーとスコット・ノートンが“気をつけ”をして退屈そうな顔でいっしょに立っていた。
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