“インディー野郎”サブゥーが目撃したメジャー団体の景色――フミ斎藤のプロレス読本#084【サブゥー編エピソード4】
シーク様の教えはこうだった。家を一歩出たらサブゥーになること。近づいてくる人間とはしゃべらないこと。アリーナのなかに入ったら、ほかのボーイズともおしゃべりをしないこと。ボーイズとその家族以外には本名を知られないこと。ヒールは笑わないこと。
いまサブゥーが目撃している光景は、どれもこれもシーク様の教えにあてはまらないものばかりだ。サブゥーはリングネームだし、ホークだってアニマルだってスティングだって、アントニオ猪木だって長州力だってほんとうの名前じゃない。彼らも――シーク様がそうであったように――ふたつのセパレートなパーソナリティーを持っている。
ニュージャパン・プロレスリングのムードは、プロフットボール・チームやベースボール・チームのそれに近いのかもしれない。レスリング・ビジネスには、これはこうだからこうなのだ、という定義はない。
シーク様が教えてくれたルールやマナーがまちがっているとは思えないが、やっぱりニュージャパンにはニュージャパンのルールやマナーというものがあるのだろう。サブゥーは、なんだかわけもなくうれしくなって、下を向いて静かに笑った。
ホームタウンのミシガン州ランシングに帰ったら、ライヴの準備をしなければならない。サブゥーはシーク様には内証でインディペンデント団体の設立にとりかかってた。まだプロモーション名はない。
デトロイト、というよりもミシガン、オハイオ、インディアナ、カナダ・オンタリオの五大湖エリアではプロレスといったら昔から“ビッグ・タイム・レスリング”である。
ビッグ・タイム・レスリングは30年以上もまえにシーク様が経営していたカンパニーで、サブゥーが住んでいる土地では、いまでもプロレス=イコール=ザ・シークだ。シークがトシをとってビッグ・タイム・レスリングを“閉店”したら、ローカルのプロレス文化そのまま過去のものとなった。
サブゥーが「ニュージャパンに行くことになった」とシーク様に伝えたら、伯父上はたいへん心配した。
「イノーキはわしのことが大嫌いだからな」がシーク様のおことばだった。サブゥーは伯父上の取り越し苦労をありがたく思い、また、それはちがうよ、とも感じた。アントニオ猪木は、いまサブゥーがいるところからほんの数メートルの距離に立っていた。(つづく)
※文中敬称略
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文/斎藤文彦 イラスト/おはつ1
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