更新日:2022年10月05日 23:27
スポーツ

“インディー野郎”サブゥーが目撃したメジャー団体の景色――フミ斎藤のプロレス読本#084【サブゥー編エピソード4】

 シーク様の教えはこうだった。家を一歩出たらサブゥーになること。近づいてくる人間とはしゃべらないこと。アリーナのなかに入ったら、ほかのボーイズともおしゃべりをしないこと。ボーイズとその家族以外には本名を知られないこと。ヒールは笑わないこと。  いまサブゥーが目撃している光景は、どれもこれもシーク様の教えにあてはまらないものばかりだ。サブゥーはリングネームだし、ホークだってアニマルだってスティングだって、アントニオ猪木だって長州力だってほんとうの名前じゃない。彼らも――シーク様がそうであったように――ふたつのセパレートなパーソナリティーを持っている。  ニュージャパン・プロレスリングのムードは、プロフットボール・チームやベースボール・チームのそれに近いのかもしれない。レスリング・ビジネスには、これはこうだからこうなのだ、という定義はない。  シーク様が教えてくれたルールやマナーがまちがっているとは思えないが、やっぱりニュージャパンにはニュージャパンのルールやマナーというものがあるのだろう。サブゥーは、なんだかわけもなくうれしくなって、下を向いて静かに笑った。  ホームタウンのミシガン州ランシングに帰ったら、ライヴの準備をしなければならない。サブゥーはシーク様には内証でインディペンデント団体の設立にとりかかってた。まだプロモーション名はない。  デトロイト、というよりもミシガン、オハイオ、インディアナ、カナダ・オンタリオの五大湖エリアではプロレスといったら昔から“ビッグ・タイム・レスリング”である。  ビッグ・タイム・レスリングは30年以上もまえにシーク様が経営していたカンパニーで、サブゥーが住んでいる土地では、いまでもプロレス=イコール=ザ・シークだ。シークがトシをとってビッグ・タイム・レスリングを“閉店”したら、ローカルのプロレス文化そのまま過去のものとなった。  サブゥーが「ニュージャパンに行くことになった」とシーク様に伝えたら、伯父上はたいへん心配した。
斎藤文彦

斎藤文彦

 「イノーキはわしのことが大嫌いだからな」がシーク様のおことばだった。サブゥーは伯父上の取り越し苦労をありがたく思い、また、それはちがうよ、とも感じた。アントニオ猪木は、いまサブゥーがいるところからほんの数メートルの距離に立っていた。(つづく) ※文中敬称略 ※この連載は月~金で毎日更新されます 文/斎藤文彦 イラスト/おはつ
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