馬場さんの“武道館のすみっこに座っているお客さんにもわかるプロレス”――フミ斎藤のプロレス読本#147[馬場さんワールド編2]
―[フミ斎藤のプロレス読本]―
199X年
ジャイアント馬場さんの仕事は、みんなの試合をしっかりと観戦することである。
全日本プロレスのオーナー社長で、興行プロモーター。そして、現役プロレスラー。業務上のノルマは数えきれないくらいある。でも、いちばん大切な仕事はやっぱりプロレスそのものと接することだ。
プロ野球の監督じゃないけれど、馬場さんの頭のなかにはベンチ(ドレッシングルーム)に座っているすべての選手の長所と欠点、いいクセと悪いクセ、“売り方”なんかがインプットされている。
馬場さんがみておもしろいものはおもしろく、これはダメだと思うものはやっぱりダメということになる。
「レスリングをやりなさい。受け身をとりなさい。武道館のすみっこにいるお客さんにもわかるプロレスをやりなさい」そんなにむずかしい理屈のようなものはない。
日本武道館のリングには、馬場さんがあまりよく知らない選手たちが立っていた。
2シリーズ連続でメジャー全日本プロレスを“体験留学”した池田大輔(格闘探偵団バトラーツ)は、菊地毅の起き上がりこぼしジャーマン・スープレックス3連発を食らってフォール負けを喫した。
「殴って、蹴って、相手を倒したあとのことを考えなさい。レスリングをしなさい。それから、もっと練習をしなさい」これが馬場監督の池田評である。
新崎人生(みちのくプロレス)は、馳浩のジャイアント・スウィングでブンブンと振りまわされながら、ちゃっかりと“合掌”のポーズをキメていた。全日本プロレスのリングではそれを出すチャンスがないだろうとみられていたロープ歩き“拝み渡り”も、一瞬のタイミングで成功させた。
お客さんに伝わるものは伝わるし、伝わらないものはどこをどうやっても伝わらない。いいものはだれがやってもいいし、悪いものはだれがやっても悪い。新崎の念仏パフォーマンスよりも、馳のレスリングの意地の悪さのほうが馬場さんには気になった。
「みんな、得意なこと、好きなことは一生懸命にやるが、苦手なこと、嫌いなことはハキハキやらん。それではなにも練習していることにならん」
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