脚と羽を縛られた鶏が、生きたまま傷だらけの状態で農道に放置されていた
闘鶏に使われたとみられる傷ついた鶏が、沖縄県内の農道や畑、ゴミ捨て場などに放置されるという事件が頻発している。そのことに気づいた一人の女性が、鶏たちを保護・飼育し続けていた――。
傷ついた鶏を、生きたまま放置。闇闘鶏で動物虐待!?
沖縄県南部の簡素なプレハブで、数十羽の鶏とともにひとり暮らしている女性がいる。ダイビングインストラクター、水中カメラマンの本田京子さん(41歳)。北海道の出身で、沖縄の海にあこがれて25年前に沖縄へ移住した。
「今日も4羽、サトウキビ畑に捨てられていました」
本田さんは2017年3月、闘鶏で傷ついたと思われる鶏を名護岳(沖縄本島北部)で発見してから、延べ約140羽の鶏を保護してきた。
「びっくりしました。頭に毛はなく大きな穴が開き、片目を失った鶏が路上に瀕死の状態で横たわっていたんです。周囲の人に聞くと、1週間前から捨てられていたとか。すぐに、鶏を診察できる獣医さんのところに運びました。
それ以来、ボランティアの方に来ていただける日もありますが、基本は一人での作業。朝はすべての鶏を外のケージに移し、夜は安全のためプレハブの中に戻します。作業は深夜になることも。エサ代や病院の治療費がかなりかかりますが、今は仕事もできないので貯金を取り崩しながらやっています」
眼球がえぐりとられた鶏。下のクチバシが切られてしまったので上のクチバシが伸びて曲がり、エサを思うように食べられない
闘鶏とは、古代から世界的に行われている鶏(多くの場合は軍鶏〈しゃも〉)を闘わせる娯楽。日本には奈良時代に唐から伝わったといわれ、賭博行為を伴いながら全国の農村で盛んに行われていた。
沖縄出身で闘鶏の現場を知っているというA氏は「自分はやっていないが」(本当のところはわからないが)と前置きしたうえで、沖縄での闘鶏について話してくれた。
「闘鶏は、今も沖縄各地で行われている。賭け麻雀や賭けゴルフのような感覚で。勝敗にカネを賭けていることが多く、スケジュールや場所は仲間内だけでこっそり回している」
ケージに横たわったまま起き上がれず、瀕死の状態の鶏。「もう自分ではご飯を食べられない状態です」(本田さん)。鶏が力尽きるその日まで、愛情を注ぐ
本田さんが保護した鶏を診察している獣医師は、次のように話す。
「多くの鶏は、急所の両目あるいは片目がつぶれている状態でした。顔面、とさか、頭部に重度の外傷を負い、頭蓋骨が露出しているものも珍しくはありませんでした。このほか、全身に多数の外傷があり、治療を受けずに著しく痩せて衰弱した揚げ句捨てられた可能性が高い鶏も多かった。
頭部の外傷を不衛生な糸で縫われていたケースもありました。あらゆる疾患が放置されているようで、トリサシダニや羽毛ジラミなどが寄生している鶏も多数見られました。傷ついた軍鶏をケアしないことや遺棄することは、明白な動物愛護法違反です」
特徴的なのは、クチバシや蹴爪(けづめ)を根元から切断されている鶏が多かったということだ。
「クチバシや蹴爪を切るのは、練習用の鶏である場合も。攻撃力を奪った無抵抗の鶏をいたぶることで、闘鶏に出場する鶏に自信をつけさせる。または本番の試合でも、無抵抗の相手がダウンするまでの時間を賭けるというやり方もあると聞く」とA氏は話す。
闘鶏に薬物が使われ、肉も卵も食べられない!?
「どの鶏も性格が違いますし、慣れると甘えてきてかわいいです」と語る本田さん
さらに本田さんは「闘鶏は日曜日に行われているようで、鶏が遺棄されるのは月・火・水曜日が特に多いです。周辺の人たちに聞くと、『闘鶏の鶏』ということで誰も拾わず、多くは野良犬に食べられたり、そのまま病死・餓死したりするんだそうです」と語る。
「名古屋の軍鶏鍋の店から『引き取りたい』との話がありましたが、お断りしました。食用になるならもう少し大事に扱うのかと思うのですが、実は闘鶏の鶏にはいろいろな薬が投入されていて、肉も卵も食べられないというんです」
A氏は、次のように説明する。
「カネがかかっていて真剣だから、攻撃的になる興奮剤、止血や痛み止め、筋肉増強など、さまざまな用途で薬を使っているようだが、どんな薬を使っているかは飼い主にしかわからない。傷ついて弱ったら捨てるしかない」
本田さんが
Facebookや
ブログを通じてこの実態を伝えると、餌の提供や鶏の引き取りなどを申し出る協力者が全国から集まったという。
「それでだいぶ助かりました。でも、捨てられる鶏の数は一向に減りません。今後もずっと支援していただけるわけではないでしょうし……」