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「日本一の子育て村を目指して」都市部から移住者が集まる島根県邑南町の施策

周辺を山に囲まれた盆地に広がる邑南町

周辺を山に囲まれた盆地に広がる邑南町。天然記念物のオオサンショウウオが生息するほど豊かな自然で知られる

 地方が少子高齢化にあえぐなか、全国から視察が相次いでいる自治体があるという。島根県邑南町(おおなんちょう)だ。同町は「日本一の子育て村構想」を掲げ、2011年度から積極的な子育て支援を打ち出してきた。邑南町役場定住促進課の田村哲氏に聞いた。 「邑南町は’04年に2つの町と1村が合併して誕生しました。しかし人口はずっと自然減を続け、高齢化率も40%を超えていた。町の外から子育て世代に来てもらわないと苦しくなるばかり。そこで、邑南町であれば経済的に安心して子育てができると思ってもらえる施策を打ち出すことにしたのです」  現在の邑南町では、中学校卒業までの医療費と第2子以降の保育料などが無料だ。さらに、就職先や学校の斡旋や住居の紹介も町役場で行う。これらの施策を進めるために、邑南町は専従職員として定住支援のコーディネーターを新たに採用。UターンやIターンの移住者だけでなく、町に縁がない人の不安も軽減できるように1対1で相談を受け付けている。その結果、13年度にはそれまで毎年数十人ほど減っていた人口の社会動態が初めてプラスに転じた。住民の減少がストップしたのだ。  そのなかには、広島市から車で1時間ほどの立地を生かして、在宅勤務をする人もいる。現在、移住2年目の高橋章大さん(30歳・仮名)もそのひとりだ。広島市のデザイン会社に勤務していた高橋さんは結婚を機に祖父母が暮らす邑南町への移住を決意。子供の頃から馴染みのある土地というだけでなく、手厚い子育て支援も決め手になったという。当初は町での転職も考えていたが、会社からの勧めもあり、在宅勤務を選んだ。 「簡単な打ち合わせはスカイプなどを利用して行いますし、広島市にもすぐ出られる。業務に支障はなく、不便だと思うことはないですね」と高橋さん。年収は100万円ほどダウンしたが、家賃が安いのと、近所から野菜や米をもらったりできるため、家計が苦しいと感じたことはないという。
邑南町では保育所の給食も無料で提供

邑南町では保育所の給食も無料で提供。地元産の食材をふんだんに使った給食は、子供たちにも好評だという

「常に仕事に追われる生活に息苦しさを感じていたので、のんびりと生活できる邑南町に移住して良かった。今は自分のペースで時間をコントロールできるし、祖父母の田んぼを手伝って息抜きをしたりもできる。子供にも慌ただしい都市部ではなく、こういう環境で育ってほしいですね」(高橋さん)  東京や大阪からも移住希望が増加中の邑南町。子育て支援のほかに農業の研修制度も設けるなど、さまざまなニーズに応えられるべく試行錯誤をしている。 「支援制度を利用して新たに定住された方は150人ほど。いきなり人口減少を止めることは難しいですが、このままでは町が消滅するという危機感は町民も共有しています。だからこそ町が一丸となった支援を実現できたのです」と前出の田村氏。こんな町なら移住を検討しやすいかも。  1/27発売の週刊SPA!では『[東京・年収600万円vs地方・年収300万円]どっちが得か?』という特集を組んでいる。地方移住者が4年で2.9倍に増えているという昨今、自分の人生を考え直すにはいい機会なのかもしれない。 <取材・文/小山田裕哉 写真提供/島根県邑南町役場>
週刊SPA!2/3号(1/27発売)

表紙の人/中村アン

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