葬儀屋は暴力団のお葬式を受けてはいけないはずなのに…「射殺された暴力団員の葬儀」報道に疑問
「では、どうすればいいのか?」という問いに対する答えは、現在のところ出ていません。暴力団の組織名を表に出さず個人でひっそりとお葬式を行えば、警察もそれ以上チェックできず、黙認というのが実態です。
たとえばお葬式は行わないで、火葬だけを行う直葬なら、条例上もギリギリOKという解釈が成り立つかもしれません。しかし、そもそもお葬式をやってはいけないと法律で強制された結果としての直葬だとしたら、お葬式という宗教儀式を行ってはいけないということになり、憲法が認めている信教の自由を犯しかねません。
つまり、お葬式に関する限り、この暴力団排除条例自体が理不尽なのです。
お葬式の場合、参列者が持参する香典は法律上課税の対象になることを免れています。そのため、暴力団のお葬式での香典が資金源として利用されるという危険性があるので葬儀はダメ、という理屈は確かに成り立つかもしれません。
とはいえ、”社会通念上相当と認められる”金額の香典であることが前提なので、いわゆる香典袋がポンと立つ、というレベルの香典は条例施行以前から認められていません。
この条例が施行されたとき、暴力団の法事を受注したという葬儀社が摘発されました。この葬儀ではなく法事を受注したことで摘発、というところが絶妙でした。
おそらく、警察も葬儀を受注したということで摘発しては葬儀現場の人は困ってしまう、ということを知っていたのでしょう。
とはいえ、見逃すことはできない。そのため、お葬式ではなく、断ることは不可能ではない法事の受注を摘発することで、一罰百戒の効果を狙ったのだと思います。今回、報道された暴力団の葬儀を監視している警察も内心、困ったなと思っているのかもしれません。
我々葬儀社のスタッフも暴力団のような怖い人たちのお葬式を受注したいと思いません。暴力団とわかっていれば当然、断ります。しかし相手が暴力団であるかどうかの確認は相手の言っていることを信用するしかありません。
今でも火葬場では黒服・黒ネクタイが妙に似合っていて、色つきの眼鏡を着用しているという参列者の集団に出会うことがあります。これでも本人に「カタギですが、何か?」と言われれば、それ以上問いただす葬儀屋さんはいないでしょう。
私の知り合いの葬儀屋さんが経験した話では、周囲の人はいたって普通だったのに、納棺の時に故人に白装束を着せようとして、背中の模様に気づいてあぜんとするということもあったようです。
葬儀業界はこの矛盾をずっと抱えながら「一体どうすれば…」と思いながら対応しているわけですが、今回の報道はその矛盾をつきつける結果となりました。
【考える葬儀屋さん】
葬儀社に15年以上勤務し、業界内部を知り尽くしたその道のプロ。業務内容はお葬式の担当と葬儀・葬儀業界の分析。Twitterアカウントは@kangaerusougiya。「ライブドアブログ OF THE YEAR 2015」にも選ばれ、月間45万PVを突破した「考える葬儀屋さんのブログ」も日々更新中。
―[考える葬儀屋さん/赤城啓昭]―
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