スポーツ

ダルビッシュも受けたトミー・ジョン手術、「子供の患者急増」という異常事態

スカウトのショーケースと化したリトルリーグ

 さらに問題なのは、10代前半の子供たちまでもが、同じようにビジネスライクな環境で野球をしている現実だ。 少年野球 アメリカで人気のトラベリングベースボール。“キッズ版MLB”である。スタジアムのデザインや大型ビジョンといった設備から、“これぞスタ飯”といったジャンクフードにビール。あらゆるシステムが、MLBをトレースしているのだ。そんな中で、未来のスター候補がしのぎを削り合う。  早い話、スカウトが集うショーケースなのである。すると、本来子を守るべき立場にある親が、その雰囲気に飲まれてしまうのだという。トーナメントを勝ち進むほどに、スカウトからの注目も増す。輝かしいキャリアという夢が、急に現実味を帯びてくるのだ。  ジェフ・パッサンは前出の記事で、こんなエピソードを挙げている。  息子の投球数を数えては、「次の試合もいけるでしょう!」とベンチに直訴する。「同じ日に何試合も投げさせるわけにはいかない」と難色を示す監督に対して、「あのご両親を見てくださいよ」とコーチが頼み込む。  再びマウンドに上がる10歳の少年。投げるたびに球速が落ちていたのでは、チャンスも潰えてしまう―――。  これは作り話ではない。最初はためらいながらも、結局この少年を続けて登板させた監督は、こう語ったという。 <長い距離を走れる馬がいるのと同じことだ。でもそれを見分ける術はない。それだけのことなんだ。>  現在、ある医師が担当する高校生のトミー・ジョン手術は、年間80から90件だという。1997年には2件しかなかった。およそ20年で、子供たちを取り巻く環境に大きな変化が起きたのは明白だ。

子供を品定めするシステムが野球から奪うもの

 ダルビッシュ有が、ボーイズリーグに所属していたことは知られている。早くからプロへとつながるキャリアを意識しながら野球をしていた―――させられていた―――点では、トラベリングベースボールの少年に通じる。  もちろん、ボーイズリーグから甲子園へとつながるキャリアが、今回の怪我につながったとは結論づけられない。それとは別に考えなければならないのは、子供を品定めするシステムが、野球から何を奪うのかということだ。  ダルビッシュ少年に、野球はGameでありPlayするものだと感じる瞬間はあったのだろうか。右肘に残った手術痕よりも、気になる点である。 【ボーイズリーグとは】 http://business.nikkeibp.co.jp/article/life/20080328/151554/ <TEXT/石黒隆之>
音楽批評の他、スポーツ、エンタメ、政治について執筆。『新潮』『ユリイカ』等に音楽評論を寄稿。『Number』等でスポーツ取材の経験もあり。Twitter: @TakayukiIshigu4
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