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1か月で8人の強姦殺人を繰り返した「大久保清」という男【大量殺人事件の系譜】

「俺には人間の血は流れていない」

 振り返ってみると、強姦殺人の予兆は過去に見て取れるが、一方で、スタンダールの名作『赤と黒』を好み、詩集を自費出版するなど、文学へ傾倒していたこともうかがえる。出所後、結婚し長男にも恵まれた。落ち着いたかに見えたのも束の間、32歳でふたたび強姦容疑で逮捕、2度目の服役をした。そして仮釈放直後に、戦慄の連続強姦殺人魔となったのである。そのときに「ボクちゃん」が使用したスポーツカーも親が買い与えたものだった。供述では、「俺には人間の血は流れていない。冷血動物なんだ」と、大久保はうそぶいたという。  時代は、高度経済成長していく過程にあった。女性を誘い出す手口や、そのために使う車も、時代を象徴するように新しいタイプの犯罪だった。  作家・佐木隆三氏の生前、大久保清について話をうかがったことがある。事件現場をくまなく歩き、事件の深層に迫ろうとした佐木氏はこう言った。 「大久保の内面だけは、なかなかつかむことができなかった。精神鑑定で『責任能力あり』とされ、それ以上の分析が行われなかったからです。大久保の心の中を明らかにできなかったのは、非常に残念でなりません」  嘘で塗り固められた大久保の人生。1973(昭和48)年に死刑が確定し、3年後に東京拘置所で執行された。享年41。  大久保は確定死刑囚になってからも反省の色を見せることなく、「被害者は自分のほうだ」などと発言。死刑についても「立派に死んでみせる」と強がっていたが、刑場に連れ出される際に恐怖で腰を抜かしたと、語り草になっている。大久保には人としての心があったのだろうか。 <取材・文/青柳雄介 photo by l’interdit via flickr>
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