「あと一杯だけ奢ってくれ! 飲みたいんだ!!」――46歳のバツイチおじさんはインドで完全になめられた〈第30話〉
するとジャイアンはウィスキーの小瓶をグラスに注ぎ、一気に飲み干した。
俺「え? 一気? 一気に飲み干したの?」
インド人①「うん」
俺「それ、ウィスキーだよ。大丈夫?」
インド人①「うん」
ジャイアンの目は少し座ってきている。
なんだよこいつ……。
インド人①「もう一杯飲みたい」
俺「一杯って約束したよね。ダメだよ」
インド人①「頼む! あと一杯だけ奢ってくれ! 飲みたいんだ!!」
俺「ないないない」
インド人①「頼む!兄弟!」
お! こいつ、「兄弟」って言葉を使ってお願いしてきた。
しかも、頭を下げた。
男が頭を下げてお願いしているのに、それを断るのは無粋だ。
ガンジャマンの友情の証、「ガンジャパーティー」を断ったのがまだ心のどこかに引っかかっていた。
俺「……わかったよ。いいよ。あと一杯だけ奢るよ」
インド人①「やったー!」
「やったー!」って子供か。
もしくはマシ・オカか。
なんてシンプルでストレートな感情表現なんだ。
インド人①「じゃぁ俺、お酒買ってくる」
インド人①は大喜びでバーカウンターに注文に行った。
俺「あれ? お前、なんでウィスキーの小瓶、2本も買ってきてんだよ」
インド人①「いや、奢ってくれるの最後って聞いたから2本買ってきた」
俺「……………」
子供のおねだりか!
ざけんなよ、ジャイアン。
しかし、わかりやすい奴だな、こいつ。
俺「お前、いい加減にしろよ。日本人をあまりなめんなよ」
インド人①「まぁまぁ、兄弟! 乾杯しようぜ、な?」
俺「……おう、じゃぁ乾杯するか」
インド人①「乾杯!」
俺「乾杯」
そう言うと、ジャイアンはウィスキーの小瓶2本を瞬く間に飲み干した。
もうすでに合計で3本飲んでいる。
しかも飲み始めて30分も経っていない。
俺「大丈夫かい?」
インド人①「ヒック……。ヒック……」
しゃっくりが止まらなくなっている。
もう、なんなんだよこいつ……。
どうやら、酒の飲み方がよくわかってないようで、酒が来たらひたすら一気する。
一昔前の大学生のような飲み方だ。
インド人①「あと一杯飲みたい!」
俺「…いいけど俺、奢らないよ。自分でカネ出しな」
彼は俺をぎろりと睨んだ。
目は真っ赤で、完全なる酔っ払いの顔だ。
インド人①「ちょっと注文してくる」
そう言うと一人でカウンターに行き、ウィスキーの小瓶とピーナッツを買ってきた。
インド人①「つまみにピーナッツ買ってきたよ。ヒック、ヒック」
俺「お、悪いな。サンキュー」
俺は彼が買ってきてくれたピーナッツを食べながら、一本目のキングフィッシャービールを飲み干した。すると、バーの店員が俺のとこにやってきた。
店員「君が彼の友達か? 彼が買ったウィスキーとピーナッツ、友達の日本人が払うって言ってたからお金を回収しに来たぞ」
俺「え? いや、俺関係ないよ。彼が自分で払うよ」
店員「彼がお金を払わないんだよね。代わりに払ってよ」
俺「ちょっと待ってください。おい、お前、自分で払えよ!」
すると彼は真っ赤な目を背け、無視をした。
俺「おい! 聞いてるのか?」
インド人①「……」
俺「おい!」
インド人①「……」
俺「おい! カネ払えよ」
インド人①「……」
完全無視。
こいつ、完全に俺をなめてるな。
甘い顔をしたら調子に乗りやがって。
俺は頭に血が上った。
俺「おい、てめー、なめんなよ、こら!」
俺は日本語でブチ切れ、ガンを飛ばした。
俺はガンジャマンとの出会いで、インドで“漢”を磨くことに決めた。
漢はなめられたら終わりだ。
俺「なんか言えよ、コラ!」
俺はガンを飛ばし続けた
インド人①は充血した目を俺から背けたままだ。
俺「店員さん、俺、帰りますわ。自分が飲んだ分は払ってるんで。お金、こいつから貰ってください」
そう言うと、俺は一人席を立ち、バーの階段を降りた。
日は暮れて辺りは真っ暗になっていた。
時計を見ると夜の8時を回っている。
あいつ、一体どういうつもりだったんだ?
ただ単にカネがなかったのか?
それとも俺からたかりたかったのか?
とにかく、俺をなめてたことは確かだ。
俺、旅慣れてなくて、なめられる雰囲気を出してたのかな?
初めて会ったやつからなめられるようでは、女からモテるはずもないもんな。
1969年大分県生まれ。明治大学卒業後、IVSテレビ制作(株)のADとして日本テレビ「天才たけしの元気が出るテレビ!」の制作に参加。続いて「ザ!鉄腕!DASH!!」(日本テレビ)の立ち上げメンバーとなり、その後フリーのディレクターとして「ザ!世界仰天ニュース」(日本テレビ)「トリビアの泉」(フジテレビ)をチーフディレクターとして制作。2008年に映像制作会社「株式会社イマジネーション」を創設し、「マツケンサンバⅡ」のブレーン、「学べる!ニュースショー!」(テレビ朝日)「政治家と話そう」(Google)など数々の作品を手掛ける。離婚をきっかけにディレクターを休業し、世界一周に挑戦。その様子を「日刊SPA!」にて連載し人気を博した。現在は、映像制作だけでなく、YouTuber、ラジオ出演など、出演者としても多岐に渡り活動中。Youtubuチャンネル「Enjoy on the Earth 〜地球の遊び方〜」運営中
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