「あと一杯だけ奢ってくれ! 飲みたいんだ!!」――46歳のバツイチおじさんはインドで完全になめられた〈第30話〉
俺は自分から出ている雰囲気、オーラについて少し考えた。
理想のオーラは『北斗の拳』のラオウの闘気か『ワンピース』のルフィーから出る覇王色のオーラだ。
何も言わなくても本能的に醸し出る、野生の強さを身につけたいと思った。
「うーん。どうしたらそんなオーラを身につけられるんだろう?」
その時だった。
インド人①「おーい。ごっつ。待ってくれ!」
ジャイアンが俺に近づいてきた。
なんだ? あんだけガンを切ったのに。
まだ舐めてんのか?
インド人①「頼む。カネを貸してくれ! 100ルピー(150円)!」
俺「……」
俺は完全に無視をした。
インド人①「100ルピーだけ。な、頼むよ!」
こいつはまた俺を舐めている。
これは俺自身の問題だ。
なめられる俺に問題があるんだ。
俺は野生のオスとしてしての闘気を高めた。
これ以上なめてきたら自然とブチ切れられるよう、静かに闘気を貯めた。
不思議と心の奥は静の状態が保たれてた。
いい感じだ。
きっと覇王色のオーラが全身から溢れ出しているに違いない。
俺は静かに彼の目を見てドスの効いた声で言った。
俺「おい、お前。自分で飲んだケツぐらい自分で拭けよ」
その時だった。
バン!
左頬に強烈な痛みが走った。
なんだ?
何が起きたんだ?
痛てーーー。
なんだこの痛みは?
あれ?
殴られた、俺?
どうやら、インド人①から殴られたようだ。
なんかヨロヨロするぞ。
こいつ、マジで殴りやがったな!
こいつキチガイだ。
カネがないから俺を殴った。
ウィスキーを飲みたいから俺を殴った。
「リアルジャイアンじゃねーか!」
俺は自然と彼の胸ぐらを掴んでいた。
喧嘩スイッチが入った。
高校時代は柔道も有段者より強かった。
小中高大と腕相撲では誰にも負けたことはなく腕力には自信があった。
明治大学の腕相撲大会で優勝もしたことがある。
握力も72キロあった。
まぁそれも28年前の話だが。
俺は相手の胸ぐらを強く握り込み、体が少し浮くように持ち上げた。
そして静かに言った。
俺「なめんなよ」
ちょっとでも抵抗したらぶん殴ってやろうと思った。
その時だった。
5~6人のマイソールの街の人たちが仲裁に入った。
俺と彼は引き離され、彼は道路の反対の方向に連れて行かれた。
俺もまた別の場所に連れて行かれた。
街の人「何人だ?」
俺「日本人です」
街の人「日本人か、珍しいな。で、兄弟、どうした?」
俺はことの経緯を説明した。
街の人「悪いな。あいつ酔っ払ってるから。許してくれ」
俺「……」
街の人「マイソールもあんな奴だけじゃなく、いい人間もいるから。インドを嫌いにならないでくれよ。宿まで送っていくから」
俺は少しだけ冷静になった。
確かに、知らない街での喧嘩は良くない。
ただ、殴られた左頬が痛かった。
俺は頬や唇を触り、血が出てないことを確かめた。
そして、遠くにいる彼を見つめた。
ふと、彼と目があった。
インド人①「頼む! 100ルピー貸してくれ~」
まだ言ってる……。
血走った目で、遠くから俺に借金を頼み込んでいる。
全然あきらめる気配がない。
なんてヤツなんだ……。
街の人「おい、いい加減にしろ!」
インド人①は街の大人たちにこっぴどく怒られた。
その姿は八百屋のお袋に怒られるジャイアンそのものだった。
俺はその様子を見てると、なんだかおかしくなってきて突然笑いが込み上げてきた。
俺「くだらねー!」
俺はその場で大爆笑した。
インドのジャイアンは子供そのものだ。
お酒を飲みたいから奢ってくれ!と頼む。
カネがないから100ルピー貸してくれ!と叫ぶ。
お金を貸さないからムカついて殴る。
「わかりやすい!」
1969年大分県生まれ。明治大学卒業後、IVSテレビ制作(株)のADとして日本テレビ「天才たけしの元気が出るテレビ!」の制作に参加。続いて「ザ!鉄腕!DASH!!」(日本テレビ)の立ち上げメンバーとなり、その後フリーのディレクターとして「ザ!世界仰天ニュース」(日本テレビ)「トリビアの泉」(フジテレビ)をチーフディレクターとして制作。2008年に映像制作会社「株式会社イマジネーション」を創設し、「マツケンサンバⅡ」のブレーン、「学べる!ニュースショー!」(テレビ朝日)「政治家と話そう」(Google)など数々の作品を手掛ける。離婚をきっかけにディレクターを休業し、世界一周に挑戦。その様子を「日刊SPA!」にて連載し人気を博した。現在は、映像制作だけでなく、YouTuber、ラジオ出演など、出演者としても多岐に渡り活動中。Youtubuチャンネル「Enjoy on the Earth 〜地球の遊び方〜」運営中
そのまっすぐな感情表現をとても新鮮に感じた。
ここまで素直に感情表現をする日本人の大人なんて見た事ない。
「あいつ、野生動物と同じだな……。野生動物…、野生…そうか!」
インドで“漢”を磨くって決めても具体的にどうしていいかわからなかった。
しかし、殴られた事をきっかけにアイデアが浮かんだ。
“漢”の磨き方のヒントを掴んだような気がした。
「そうか! 体を鍛えればいいんだ。体が強くなければ“漢”としての魅力なんて出るわけない」
俺は「インド漢磨きの旅」のテーマを肉体改造に決めた。
次号予告『体を鍛えるためにバツイチおじさんが向かった先とは? 次なるマドンナと意外な出会いが!?』を乞うご期待!
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