パラリンピックのイメージを一変させる“えげつない球技”とは?
さて、試合はというと、両チームが交互に投げてはボールをキャッチし、そんなに点数は動きません。
サッカーよりはマシですが、基本的にシュートはほぼほぼ防がれます。9メートルを3人で守る際、全員が横になって手を伸ばすと大体カバーできてしまうんですね。隙間を通すなんてのは、よほど上手く投げて上手いコースにいかないと起きません。
そこでどうするかというと、とにかく強いボールで高くバウンドさせるという投球が主流である模様。男性の選手は円盤投げのようにボールを持ったままスピンしまして、その勢いでボールを叩きつけ、バウンドボールでゴールを狙います。とは言え、それだけでは壁を超すのは難しい。このボール、やたら重くて1キロ以上あり、しかも全然はずまない。バウンドしてもすぐに地べたを転がるようになってしまいます。
それでもバウンドさせるのは、転がすよりもボールの軌道が聞き取りづらいことと、ちょっとでもバウンドさせれば身体の上っ面に当たったときに、そこでもう1回跳ねて壁を越すから。特に足先に当たったときはよく跳ねます。手だとキャッチされて終わりですが、足はキャッチがなかなかできないので、跳ねて越えていくんですね。
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こうやって考えていくと、また違った駆け引きが見えてきます。両チームは自由に位置取りを変えながら戦うのですが、「相手チームの誰がどこにいて」「どの向きに寝そべっているか」の情報があればかなり有利になります。どうせ狙うなら小さい壁を狙ったほうがよいですし、寝そべっている向きがわかれば「足先」を積極的に狙うことができます。
今までは「目隠しでやるPK合戦」みたいなものかと思っていましたが、「マージャン」みたいな要素もあるようです。相手の駒がどういう並びで、左右どちらを向いているかを予測する。マージャンでも相手の手を、それ自体は見えない状態で、捨て牌から予測したりしますが、ゴールボールでも攻撃時の音や守備時の音から相手の配置を探っていくのです。「今ボールを投げた選手は左の位置にいるな」「強いボールだったからコレが一番デカいヤツだろう」「じゃ、狙い目は反対サイドで」的な感じで。
コッチは見えていますので、誰がどこにいるかなんて一目瞭然ですが、見えない状態だと「守備の名手」の位置すらわからない。そこを何とかして探ったり、逆にソーッと入れ替わったりして隠していくのが面白い。よくよく試合を見ると、頻繁に選手たちは場所を入れ替えています。見えていると何でもないことですが、見えない同士だとそれを探るのも覚えるのも神経を使うことでしょう。
だから、タイムアウトなどがかかると試合が大きく動きます。タイムアウトでベンチからくるコーチは全部見えていますので、相手の動きや隙を教えてくれるのです。試合中のコーチングは許されていないぶん、タイムアウトをどこで使うか、その駆け引きもまた面白い。ゴールボールなので、ついついコッチも目を閉じて音を聞いてみたくなるのですが、見えているからこそ面白い。マージャン番組で視聴者だけは全員の手が見えているような感じで、神の視点から見下ろす観戦が。「あの選手は相手の動きが見えておらんのぉ」などと上から目線でツッコミながら見ると、すごく偉くなったような気になります。
とかくパラリンピック観戦では「苦労している人の頑張る姿」、24時間テレビみたいなものを見ないといけないような気になりますが、やはりスポーツである以上は「勝負」を見たいもの。その点で、ゴールボールは非常に魅力的でした。選手同士の騙し合いや駆け引きもそうですし、ゴールボールみたいな競技がゴールボール以外にナイということも素晴らしい。「何かの制限ルール版」ではない競技として、掛け値なしの「日本一」なり「世界一」の勝負を楽しむことができます。
そして、やっている側も実はそんなに「苦労している人」ばかりでもない。もちろん視覚に難を抱える方もたくさんいるのですが、その辺のオジサンが目隠しをしてやっているというパターンも普通にある。試合を一歩離れた選手はスタスタと歩き、階段を降りてトイレに向かったり雑誌を読んだりするよく見えている人であるのを見ると、「音で探る」は特別なことではなく、練習すれば誰でもできるのだと思わされます。
「観る」そして「やる」、どちらにおいてもゴールボールはどこにでもある一般的なスポーツでした。極端な話、五輪に入っていても大して変わらないくらいに。ふむ、これは有力なセーフティ候補と言えそうです。五輪を見られなかった、満足できなかったときに、保険としてチケットを持っておくと、五輪感を再度感じることができそう。心に留めておきたい、まさに穴場競技でした。
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