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車移動ばかりだと思考も“運動不足”になる【鴻上尚史】

一日平均歩数8000歩の理由

 東京は、電車を使うと歩きます。階段がたくさんあって、乗り換えが複雑で、結構な距離を移動します。  毎日の平均8000歩というのは、仕事であちこち移動したのがほとんどで、意識して歩いたわけではないのです。エスカレーターにじっと乗るのもやめています。と言って階段を全部上がるのはしんどいので、エスカレーターを歩きます。最近は、「エスカレーターを歩かない」キャンペーンが盛んですが、僕は「走らない」ということは納得できても、「歩かない」は、極端な主張じゃないかと思っているのですが、これは別の話。  僕は「ああ、運転手つきの身分まで出世しなくてよかったなあ」と、本気で思っています。  大企業の重役さんとか政治家さんとか、自宅と職場を車で送り迎えされてる人は、物凄く運動不足になるだろうなあ、体に悪いだろうなあと思うのです。  だから「ジムで汗を流す」のがセレブなのでしょうが、それは大変なことです。車で通勤して運動せず、時間を作ってジムで汗を流すってのは、僕からするとじつに真面目で非効率だと思ってしまうのです。  たくさん食べて飲みすぎた時は、タクシーに乗りたくなりますが、たいして飲まず元気な時は、ちゃんと歩いて電車に乗って帰ります。そうすると、じつに体が調子いいのです。  たくさん食べて飲んで、レストランからタクシーに乗って、そのまま家につき、すぐに風呂に入って寝た場合は、次の日、なんとも体が重いのです。もちろん、体重も1kgは違います。たくさん食べた後、30分ほど歩くだけで、間違いなく体も体調も違うのです。  車移動しかない地域に住んでいる人は大変だなあと思います。僕の故郷もそうですが、移動が自家用車になると、極端に運動不足になると思います。そうなると、強靱な精神で、普段から運動の時間を取らないといけないのです。これはかなりエネルギーの必要なことです。  ほとんど運動せず、家と職場を車で移動すれば、思考もまた、運動しなくなるだろうと僕は思っています。肉体というリアルを意識しなくなると、思考から、身体的な感覚が抜けていくのです。じつに観念的に抽象的な思考が中心になると思っています。それは、人間として、バランスを失っていくことなのです。
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