撮影中に被災…AV女優と制作スタッフたちの「3.11リアルドキュメントムービー」があった【電マライター・村橋ゴロー】
ここでようやく車外にいるスタッフと連絡が取れ、ドアがオープン。「生還したー!」と喜ぶあいちゃんだが、それは車外に出られただけで、未曾有の震災からのそれではない。
続いて、
「どうしましょう?」
「日没までには」
というスタッフの声が。MM号の特性として日没になると、車内が丸見えになってしまうため、どうしてもそれまでに絡みの撮れ高が必要なのだ。帰京したい気持ちを誰もが抑え、車は撮影場所を探して彷徨う。途中カメラは完全に停止した信号機、たくさんの走り去る消防車を捉え、観る者に「そんなことしてる場合じゃねえだろ……」という思いを強くさせる。
陽はだいぶ傾いてきた。時間がない、焦るスタッフ。MM号は海岸沿いでの撮影を一瞬試みるが、パトカーからの
「大津波警報が出ています! 避難してください!!」
との声に、ハンドルを切る。結局最初にやって来た駐車場に逆戻りし、ここでミラーオープン。車内では粛々と行為が始まる。とにかくマジックミラー号での絡みを成立させねばならない。どんな状況でも我々は「エロ」を演じなければいけないのだ。MM号の外は、たまに車が走りすぎるだけで人は誰も通らない。MM号だけに男優も女優も、外の様子はわかっているはずだ。
「誰もいない」
「みんな避難したのか?」
「我々も早く帰らなければ」
これらの思いを殺しながらの行為の味は、どのようなものだったのだろう?
最後は、信号も街頭もつかない真っ暗な道のなか、帰宅難民となった一行が映し出され、“大渋滞につかまり、12時間経っても千葉から出られなかった”というテロップが。
⇒【写真】はコチラ https://nikkan-spa.jp/?attachment_id=1299407
実家に電話するあいちゃんをカメラが捉え「実家、倉庫が倒壊したらしいです」。車を諦め、翌日電車で帰京。あいちゃんは、そのままキャバクラに出勤するという。
冒頭に記したインタビューシーンで、あいちゃんはこうも語っていた。
「この世界は、普通に生きていたらできないようなプレイができるというか」
デビュー間もないあいちゃんは奇しくも、その願いを本意ではないかたちで叶えるかたちとなった。下世話からしか見えないリアルが、そこにはあった。
このAVのパッケージはもちろんのこと、サンプル動画のどこにも「3.11」を謳ってはいない。
震災からたった3か月しか経っていなかった当時、エンタメは何もかもが「不謹慎」だった。しかし僕らの健全な日常は、その不謹慎で成り立っていた。不謹慎な笑いでウサを晴らし、不謹慎なAVで欲求を満たしていた。当時、僕らの頭のなかには24時間、ずっと震災のことがちらついていた。それはとても辛くしんどいものだった。だからこそ、無理やりにでも3.11以前の日常を取り戻そうと、YouTubeでお笑いを漁り、そんな気分でもないのにAVを借りまくった。つまり、震災から僕たちの心が立ち直るのに必要なものは不謹慎なものだったのだ。
そこにきて今回の作品は「3.11当日の姿がリアルに映しだされ」、しかも「そこでセックス」しているのだから、“文句言いたがりスト”からみれば「不謹慎の全部乗せ」だろう。しかし当たり前だが、ロケ当日が、たまたまその日だったというだけ。当然、お蔵入りも検討されただろう。しかし制作陣は作品化に踏み切った。余震に怯え、将来を不安に思いながら編集室で「作品」に仕立て上げたスタッフの気持ちを思うと、胸が締めつけられる。
ただ当時のあなたたちの「不謹慎な仕事」が多くの不安で押し潰されそうな男どもを救ったことを、彼らに代わってこう言いたい。「ありがとうございました」と。
【村橋ゴロー】
1972年生まれ。ほとんどの家事とまあまあの育児をこなす、ライター・コラムニスト。千原ジュニアや田村淳など芸人連載の構成を多数手掛ける。その一方、ママ向けサイトit mamaでは、「どの口が言ってるんだ」という感じだが、妊活や育児についてのコラムを執筆中。また、『ゴー! ゴー!! バカ画像MAX』シリーズ(KKベストセラーズ刊)は累計190万部を突破。近著に『俺たち妊活部「パパになりたい!」男たち101人の本音』(主婦の友社刊)がある。Twitterは、 @muragoro
<取材・文/村橋ゴロー、画像出典/SODクリエイト『お願いっー!「私をマジックミラー号」に乗せて、メチャクチャに犯して!!』>
この作品に「ありがとう」と伝えたい
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