更新日:2022年08月28日 09:05
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フィリピン麻薬戦争、大量射殺の現場を密着レポート――ドゥテルテ大統領“違法薬物撲滅”政策の行く末

市民にとって殺人は日常の光景

大量射殺-02 現場はタギック市ロワービクタン。近くには飲食店もあり、人目も多い場所だった。細い川にかかる橋の袂にはバイクが停められ、そばには男性がうつ伏せになって倒れていた。頭から流れた血が路面を赤黒く染めている。騒ぎを聞きつけた野次馬たちで人だかりができていたが、すでにSOCO(Science Of Crime Operations:鑑識)チームが到着し、立ち入り禁止のテープが張り巡らされていたのだった。 ⇒【写真】はコチラ(※閲覧注意 遺体写真) https://nikkan-spa.jp/?attachment_id=1323473
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初めての現場で初めて見た死体

 とはいえ、テープが死体から近かったこともあり、野次馬をかきわけて目の前で撮影をすることができた。初めての現場で夢中になっていたせいもあるだろう。死体を見たのも初めてだ。しかし、何の感情もわかなかったのである。“ただの被写体”として、私はできるだけドラマチックな画になるように構図を作った。  射殺されたのは、自転車の横に座席が取り付けられたトライシクルと呼ばれる人力車の運転手。奥さんと4人の子供がいる男性だった。奥さんが屍となった夫のそばで警察の質問に答えている。あれこれアングルを工夫して死体を撮っていると、現地タガログ語はよくわからないが、不意に奥さんが「なぜそんなに私の夫の写真を撮るの」と訴えてきた。刺すような、いやむしろ、悲痛の叫びとも受け取れる悲しい視線だった。 大量射殺-04 しかし、私には何も答える事ができなかった。これがジャーナリストとしての仕事でもある。鑑識が終わり死体とバイクが運ばれて行った後、残っていた見物人の1人がこう言った。 「ヘッドショット(※銃弾が頭部に命中)だったぜ」  現場に取り残された血みどろの帽子。殺された男性が頭に被っていたものだ。どこからか来た人が、平然とした顔で砂をかけている。  男性の容疑は不明。ただ、殺され方から麻薬絡みであることが推測された。 日常と死 その後――ほぼ毎晩、どこかで発見される複数の射殺死体と私は向き合うことになった。じつは、実行者の多くは警官だとも言われている。また自警団も超法規的殺人に関わっているとの噂もある。だが残念ながら、私は取材期間中に射殺実行者と顔を合わせる機会はなかった。  とはいえ、今回の取材で市民にとって殺人が“日常茶飯事”になっているのだと実感させられた。フィリピンにおける麻薬戦争の根は深い。 (次回、フィリピン市民にどれだけ麻薬が蔓延しているのか、ドラッグデンと呼ばれる使用現場に潜入) ⇒【写真】はコチラ https://nikkan-spa.jp/?attachment_id=1323475 <取材・撮影・文/八木貴史>
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