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「るりちゃんに触ってみたい」――46歳のバツイチおじさんはさらに大きな邪念を抱き“もうひとりの俺”と話し合った〈第41話〉

コバラムビーチに到着すると、二人で泊まる宿を探した。 ベストシーズンが少し過ぎているため、交渉するとかなり値段が落ちた。 日本と違ってシーズンが終わると涼しくなるのではなくかなり暑くなる。 モンスーンの影響だ。 俺「俺、クーラーのある部屋を借りたいんだけど、るりちゃん、どうする?」 るり「私はない部屋でいいです」 俺「オッケー、クーラーがないと俺の部屋の半分の値段で借りれるよ」 俺の部屋は一泊600ルピーで900円。るりちゃんは一泊450円の部屋を借りた。 この暑さで俺は少しばかりまいっていた。ストイックな生活を続けていたヨガアシュラムを出たばかりなのにクーラー付きの部屋を借りるなんてカッコ悪い。けどしょうがない。 もう若くはない。俺はおじさん、46歳。しかもバツイチだ。

南インドの宿。値段は北インドに比べると少し高いらしい

二人は各々の部屋でシャワーを浴びると、コバラムビーチを歩いて散策した。 るり「わー、素敵なカフェが一杯ありますね~」 コバラムビーチは噂に違わぬ美しさで、バラカラビーチより少し波が大きい。遠くに見える紅白のペンキが塗られたライトハウス(灯台)と、うねる波が美しいコントラストを見せ、より幻想的な光景を際立たせていた。ビーチ沿いには西洋風のお洒落なカフェやレストランが立ち並び、まるでヨーロッパのビーチに来たかのようだ。だが、所々にヒンディーや仏教をモチーフとしたデザインのお店もあり、東洋と西洋がミックスされた少しハイエンドなセンスを感じた。こんな素敵なビーチでるりちゃんと二人っきりなんて最高だ。

コバラムビーチ。遠くに見えるのがライトタワー

浜辺に佇むるりちゃん

しばらく歩くと夕暮れになってきた。二人でビーチに座り、夕日を見た。夕日はとても綺麗で、少しだけロマンティクな雰囲気になった。 「この旅でるりちゃんと何回夕日を見たんだろう?」 その後、晩御飯を食べにレストランに入った。 白人女性「あーー!ごっつ。コバラムに来たんだ」 俺「おーー」 ヨガアシュラムで一緒に修行した女子たちがご飯を食べていた。どうやらここは厳しい修行をしたアシュラム終わりの人が、ゆったりするビーチらしい。アシュラムからもそれなりに近い。二人は彼女らと軽く話をすると、軽く会釈をし、お別れをした。 「せっかく二人になれたんだから誰にも邪魔されたくない」 るりちゃんからもそんな意思を少しだけ感じた。 なんとなくだが。 晩御飯を食べ終わると辺りは真っ暗になっていた。 だが、夜とはいえかなり暑い。 海から吹くモンスーンの夜風もなかなかの熱波だ。 海沿いの夜道を少し歩いただけで、背中から生暖かい汗が滲んできた。 俺「暑いね。35℃は超えてるかな」 るり「ですねー。今夜は夜中に何回か水シャワーないと寝れないかもですね」 ん? んん? チャンスだ。 俺とるりちゃん、隣同士の部屋に泊まってるとはいえ、その距離は果てしなく遠い。 そして、俺の部屋にはクーラーある。 いくらるりちゃんとはいえ、日本では経験したことない暑さにまいっていないわけがない。 俺はさりげなーくるりちゃんに聞いてみた。 俺「じゃあ俺の部屋に遊びにおいでよ。クーラーが効いてるから少しは涼しいよ」 クールを気取っていたが、緊張で少し声が震えていたかもしれない。 るり「えー、良いんですか?」 俺「もちろん! 夜、やることないし」 るり「確かにやることないですねー。じゃああとでお部屋に行きまーす」 やったー! やったやったやったー! るりちゃんが部屋に涼みに来るー! 900円出して、クーラー付きの部屋にして良かったー!!! 部屋に戻ると速攻でクーラーを入れ、水シャワーを浴びた。 クーラーを入れてるとはいえ、水浴びしないと耐えられない暑さには変わりはない。 汗臭いおじさん臭も落とさないと。 その後、バックパックに洗濯物を入れ、蚊取り線香をつけた。準備は完璧。 ベッドにごろりと横たわり、るりちゃんを待った。

インドの蚊取り線香。日本の1.5倍はある

「コンコン」 るり「ごっつさーん、お邪魔しても良いですかー?」 俺「どうぞー」 るり「わー、涼しいー」 俺「でしょう」 るり「クーラーのある部屋を借りて大正解ですね」 るりちゃんはベッドの上にちょこんと座った。 南インドのビーチにある個室のベッドの上に男女が二人っきり。 正確に言えばおじさんと若くて綺麗な女性が二人っきり。 しかも、ベッドに座ってるのは恋するるりちゃん。 「何があってもおかしくない」 だが、二人は男女の関係にまったくというほど発展することなく、ただただたわいのないおしゃべりをした。 るりちゃんはあくまでも涼みにきたというスタンスを崩さない。 「あくまでも“ただのお友達”ですよー」という雰囲気は一向に変わることがなかった。 俺はバラカラビーチで出会ったたかしくんに、るりちゃんが告白された時のことを思い出していた。 ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※  るり「実は…告白されちゃったんです。結婚してくれって」 俺「えーーーーーーーー!」 るり「……」 俺「もうそんな関係まで行ってたの?」 るり「いや、付き合ってもないですし、まだ出会って数日しか経ってないです」 俺「あ、そうだよね。この間から数日しか経ってない」 るり「で、困ってるんです。だから、無理ですってちゃんとお断りしたんです」 俺「そうなんだ。じゃあ悩むことないじゃん」 るり「そうなんですけど。同じゲストハウスで毎日会うから、気まずくって」 ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※  「たかしくん、告白するなんて勇気があるな」 「告白しようかな」 「でもなー。自信ないし」 「確かに、隣の部屋に泊まってるのに、俺が急に告白して断わられたら、るりちゃんのほうこそ気まずいだろうな~」 「確実にイケるっていう自信がないし」 「まだダメだ」 「よし、もう少しお友達関係を続けよう」 俺はるりちゃんの前で、「あくまでも“ただのお友達”ですよー」という雰囲気をさらに負けじと醸し出した。そうすることで、二人の会話は盛り上がった。 そうこうしているうちにあっという間に2時間が経ってしまった。 時刻は夜の11時30分。 るり「じゃあ、そろそろ遅くなったので部屋に帰りますねー」 俺「うん。明日、一緒に朝ごはん食べようよ」 るり「はーい。じゃあ、ご飯を食べに行く時、ごっつさんの部屋、ノックしますね」 俺「オッケー。おやすみー」 るり「おやすみなさーい」 そう言うと、るりちゃんは部屋に帰って行った。 俺は一人ベッドに横たわった。 「まぁ、まだまだ時間はあるさ……」 こうしてコバラムビーチの初日は過ぎていった。 るりちゃんとのお別れまで、あと4日。
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翌朝、るりちゃんのノックで目が覚めた。
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1969年大分県生まれ。明治大学卒業後、IVSテレビ制作(株)のADとして日本テレビ「天才たけしの元気が出るテレビ!」の制作に参加。続いて「ザ!鉄腕!DASH!!」(日本テレビ)の立ち上げメンバーとなり、その後フリーのディレクターとして「ザ!世界仰天ニュース」(日本テレビ)「トリビアの泉」(フジテレビ)をチーフディレクターとして制作。2008年に映像制作会社「株式会社イマジネーション」を創設し、「マツケンサンバⅡ」のブレーン、「学べる!ニュースショー!」(テレビ朝日)「政治家と話そう」(Google)など数々の作品を手掛ける。離婚をきっかけにディレクターを休業し、世界一周に挑戦。その様子を「日刊SPA!」にて連載し人気を博した。現在は、映像制作だけでなく、YouTuber、ラジオ出演など、出演者としても多岐に渡り活動中。Youtubuチャンネル「Enjoy on the Earth 〜地球の遊び方〜」運営中
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