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「るりちゃんに触ってみたい」――46歳のバツイチおじさんはさらに大きな邪念を抱き“もうひとりの俺”と話し合った【第41話】

俺は“ただのお友達”が『一番恋愛から遠い』ということを知っていた。 若い時に勉強した雑誌『ホットドッグプレス』の恋愛マニュアルにもそう書かれていた。翌日の夜も――。 るり「今日も11時30分になったから、“私”、お部屋に帰りますね」 るりちゃんは、カンニャクマリの時のように自分のことを「りー」と呼ばなくなり、また「私」と呼ぶようになってしまった。会話は盛り上がるが、心が打ち解けてない証拠だ。 「信頼関係は前より深くなっているはずなのに……」 そうやって「あくまでも“ただのお友達”」のお付き合いのまま、時間だけが無情に流れていった。 2日後の朝にはるりちゃんは日本に帰る。俺に残された時間はあと1日しかなくなってしまった。 るりちゃんが帰る前日の朝。つまり、一緒に過ごせる最後の日だ。 二人で「ビートルズカフェ」まで歩き、朝食を食べた。 ここはコバラムビーチでの定番となっていた。 この最終日に、俺はあることを決めていた。 俺「るりちゃん、俺、今日は連載書くのお休みする。一緒にライトハウスに行かない?」 連載なんかより、リアルな恋のほうが重要だ。 初めて連載の締め切り日をすっ飛ばした。 なんで最初からそうしなっかったんだろう? 俺にはもう時間がない。 るり「……え、今日、お休みにするんですね。いいですよー」 るりちゃんは少し喜んでるかのように見えた。 だが、返答をするときに生じた少しの“間”が妙に気になった。 俺「今日はるりちゃんのインド最終日だしね」 るり「インドを離れるの、さみしいです」 るりちゃんとの旅も今日で終わる。さみしいのはるりちゃんも同じだ。 二人で海辺に歩き、ライトハウスの展望台へと向かった。 こうやって二人でどこかに行くのも今日で最後だ。 「さみしい……」 ライトハウスの急な螺旋階段を登り、展望台に到着した。そして、二人でコバラムビーチを見下ろした。

螺旋階段

コバラムビーチ

俺「綺麗だね」 るり「そうですね」 景色の綺麗さが逆に無情さを際立たせた。 るりちゃんはただの恋する相手だけでなく、バラカラビーチ、ヨガシュラム、カンニャクマリ、コバラムビーチとずっと一緒に旅した大切な旅仲間だ。単純にお別れするのがさみしい。 そして、このままお別れすると二度と会わなくなるような気もしていた。 それには理由がある。 俺が恋に落ちてしまったからだ。 るりちゃんは俺の気持ちを、まだ知らない。 「るりちゃんは俺のこと、どう思ってるんだろう?」 その疑問がずっと頭の中でループした。 彼女は俺から醸し出される寂しさのオーラを感じ取ったのか、言葉数が少なかった。 空気は重く、二人の会話はそんなに盛り上がらなかった。 景色を静かに見つめるるりちゃんの横顔をそっと見つめた。 相変わらずとても綺麗だ。 そのままずっと美しい横顔を見ていたかった。 が、恥ずかしいので前を向いた。 るり「あの~ごっつさん」 突然、るりちゃんが俺のほうを向き、話しかけた。 どこかよそよそしい。 その表情が少しだけ曇っているように感じた。 俺「ん、何?」 るり「あのー」 俺「どうしたの?」 るり「実はこの後、私、この間一緒にバイクに乗ったインド人と昼ごはんを食べる予定があるんです」 えっ…………………………。 一瞬何が起きたのかわからなかった。 頭が真っ白になった。というより、脳がフリーズしたというほうが正確かもしれない。 時が止まったかのように感じた。 俺「……そうなんだ」 るり「ごっつさんはどんな予定です?」 俺「んー、特に予定はないよ。どうしよっかなー 海辺を散歩でもしようかなー」 俺は気丈に振る舞った。 内心は胸が張り裂けそうになっていた。 るり「ごっつさんも一緒に来ます?」 俺「え?」 るり「一緒に昼ごはん食べましょうよ」 俺「…お邪魔じゃないかな。せっかくイケメンとのランチなのに」 るり「全然、そんな関係じゃないですよ。ゴリラみたいなおじさんですよ」 俺「ゴリラおじさん……」 よかった……。 少なくとも、最終日にイケメンとデートするわけではないようだ。 しかし、俺も少しだけゴリラに似ている。 そう考えると、少々複雑な気分になった。 それから二人で待ち合わせのレストランに向かった。 すると、そこには本当にゴリラみたいなおじさんが座っていた。 俺「こんにちは」 ゴリラ「あ、……こんにちは」 ゴリラのおじさんは少し戸惑ってるように見えた。 そりゃそうだ。 向こうにしてみれば、可愛いるりちゃんと海辺のレストランでランチしようと思ったら、日本のゴリラみたいなおじさんが付いてきちゃったのだから。 気持ちはわかるぞ! ゴリラのおじさん。 ゴリラ meets 美女 with ゴリラ。 ゴリラに面食らうゴリラを見て、俺は少しだけテンションが上がった。 ゴリラ「るりちゃんの日本のお友達なんだ」 るり「日本の旅仲間のごっつさんと言います」 俺「初めまして、ごっつです」 ゴリラのおじさんは旅行会社に勤めているようで、とても親切にインド旅の情報を教えてくれた。 彼は俺に気を使ってか、決してるりちゃんに色目を使うことをしなかった。 その後、2時間近く3人でお話をし、お別れをした。 俺「ゴリラのおじさん、いい人だったね」 るり「でしょう。すごーくいい人なんです。本当にインド人、優しい人が多いです」 しかし、俺にはわかる。 ゴリラのおじさんに少しばかりの下心があったのは間違いない。 そりゃそうだ。るりちゃんは万国共通で可愛い。 これはゴリラ同士の野性の勘ではなく、人間の男としての共通見解だ。 だけど、ゴリラおじさんにはそれを超えた紳士的な態度から南インドの文化水準の高さと、彼の教養を感じた。そして何よりも優しくて人柄が良かった。 ヨガの先生であるるりちゃんにとってもインドの旅は特別だ。 現地の人と友達になり、インドの文化を知ることがとても重要なのは間違いない。 そんなるりちゃんを縛ることはできない。 お互い旅人なのだから。 恋人同士ではないのだから。 俺は彼に対して嫉妬心を抱いた自分自身を大いに恥じた。 46歳おじさんなのに器が小さい。 しかもバツイチなのに。 まぁ、るりちゃんを深く愛してしまったのだからしょうがないのだが。 俺「るりちゃん、今晩隣のビーチの崖沿いのレストランに行かない?」 るり「あー、前から気になってたとこですね。いいですよー」 やったー。 るりちゃんは快くOKしてくれた。 それから一旦宿に戻り、シャワーを浴び、涼しくなる夕暮れを待ってから二人で街へ出た。いよいよるりちゃんとのラストナイトだ。
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俺の恋心は徐々に高まってく……
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