「残業代は払わない」ブラック企業の人事が明かす強引なやり口
残業代が出ない、拘束時間が長い、社長がワンマンなどといったことによる「ブラック企業」という名前が定着して久しい。「被害者」の声は広く聞かれるようになったものの、加害者側の思惑と手口とは?
とあるブラック企業で“会社側の人間”として人事を務める峰田ゆかりさん(仮名、30代後半)が、SPA!の取材にそのやり口を語ってくれた。
「ウチの会社は社員20名ほど。少人数の会社ながらこの1年で辞めた社員は10人近くに上ります。ウチは社長がすべてに口を出す“超トップダウン”。人が辞めてもすぐに新しい人を採用するので一応人員的には揃っていますが、こんなペースで離職者が出ているとなると、世間的に見たらブラック企業と言われるでしょうね」
峰田さんの勤める会社は、主に広告制作を生業としている。取引先には超大手広告代理店や印刷所などのそうそうたる大企業の名前が並び、そこから受けたWebや新聞広告などを制作する、いわゆる編集プロダクションだ。
「社長は60代ながらもまだまだ現役で、経営だけでなくいまだにライティングや制作ディレクションなど、プレーヤーとしても仕事をしています。個々の制作物にもすぐに口を出してきますし、社内の仕事をすべて自分がハンドリングしたいタイプで、自分が納得したデザインや原稿が出来るまでは絶対に仕事を終わらせない。ほとんどの社員が午前2時、3時まで毎日仕事をしてますよ」
社長自身も会社にいる時間が長く、社員にプレッシャーをかけるという。
「まず社長は毎朝7時に出社してきます。何をするでもなくテレビを見たり寝てたりするんですが、仕方ないのでほかの社員も早くやってきて仕事をするハメに。おまけに深夜1時ごろまでは帰らない。社長がいるから帰りにくい空気が蔓延しています」
社長のモットーは「誰も働いていない時間に働け」で、寝る間を惜しんで働くことで会社全体の売り上げがアップするという持論を常に展開してくるという。最近では、電通事件(過労による新入社員の自殺)があっただけに、その手の主張は受け入れられない世の中になっているが……。
「それも社長からすれば、売り上げを増やす絶好のチャンスというんです。『今こそ電通を抜き去るとき』とまるで合言葉のように社員に刷り込み、電通が残業できないタイミングこそめいっぱい長時間労働させようというのです」
社員の入社試験でも社長は従順な社員のみを雇えるよう、ひと工夫しているとか。
「応募してきた人の面接はすべて社長が行います。質問は『会社を元気にしてくれるかどうか』や『クリエイターとして大成する気持ちがあるか』のような、なんとも抽象的なもの。そして確信犯だと思うのですが、ウチの会社に中途入社してくるのは、40代半ば以上の、いわば歳のいった人ばかりなんです。これは社長があえてそうしていて、この年代の人だと一度職を失ったら再就職が難しいことを知ってるからなんですね。しかも経験は長いので、業界のなあなあな勤務時間にも慣れている人が多い。無茶を言っても辞めない人しか採用してないんですよ。それで入社したら、社長のあまりのワンマンぶりに辟易して辞めていくというのが鉄板コースです」
ただし、面接の際、社長は会社の勤務実態を応募者に伝えてはいるという。
「みなし残業があること、会社が苦しいときは休んでもらう(自宅勤務扱いにする)こともあること、朝から夜中まで仕事をしている社員が多いことなど、どれもウソではないギリギリのラインで話しているんです。受かりたい人は、YESと答えますよね。入社した人はそれを承知のうえで入ってきたということだから逆らえない。人事の立場としては、そんなことを面接相手に言うのは労働法的にアウトなのではとヒヤヒヤしていますが、それでも入社してくる人がいるのが現状ですね」
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