――西寺さん自身は20年前、今のようなキャリアを歩んでいると想像できましたか？ 西寺：インディーズだった頃は音楽業界も景気がよかったから、今考えたら笑い話ですけど、いくつかのメジャーに誘われた時は桑田佳祐さんとか、ああいう国民的な存在になれるとどこか思ってた部分はありましたね。当時、そういう風に僕のことを評価してくれた人もたくさんいて。全然なれてませんけど(笑)。ただ、ノーナの最新アルバムを客観的に聴いていると、やるべきことをやってきたから、比較対象がないバンドにはなってきたなと思ってますね。大枠はずれてないと。インディーズ時代はもともと5人組だったんですけど、ワーナーと契約する際に小松と奥田に3人でやろうって俺が言ったときに、「この3人なら20年やれる」って言ったんですよ。 ――まさにその通りになったと。 西寺：ただそれは、ノーナがどうというよりはプロで生きていくことはできるっていう意味だったんですけどね。先に卒業した僕以外、まだ大学に通ってて。自分はもともとプロになりたいって思って東京に来て、のたれ死んでもかまわないと思ってたんですけど、メンバーはまだいくらでも就職の話があるんで、ご両親からしたら変なノリノリのヴォーカルにそそのかされたみたいなもんじゃないですか。本人たちはそう思ってなかったとしても。そのときから、小松と奥田は絶対大丈夫って自信があった。彼らの才能に気がついて、一緒に組めたことが僕にとってはすべてでした。実際、もう奥田も小松も超売れっ子ミュージシャンでノーナがなくなったとしても音楽業界で生きていけると思うから、そういった意味で外れていないですね。 ――音楽以外での活躍も当初から目指していたんですか？ 西寺：いや、全然。自分が本を書いたり、テレビに出たりこんなに沢山ライナーノーツを書いたりするとは思ってなかったですよ。むしろ、たまに寝る前に変な状況だなって思いますね。 ――少年期からずっとファンだった人とも、今では親交が深いですよね。 西寺：そうですね。ジャクソン兄弟と仲よくなったり、錦織さんとか少年隊のメンバーと仲よくなったり、生きてたらどんな人とも仲良くできるし会えるなっていうのは感じてて、逆に生きてなかったらもう会えないから。ジョージ・マイケルにしてもプリンスにしてもここ1、2年で亡くなって、でもそれが悲しいというより、僕だっていつ死ぬかなんてわからないし、そう思うと一つずつ一生懸命やらないと後悔が残るだけだなって。 ――そのなかで今年はアルバムに集中した年だったと。 西寺：そうですね。あと、ノーナのいいとこってそれぞれ能力が全然違うんですよ。奥田も驚くほどいい曲作るしピアノとギターの名手ですけど、やっぱりヴォーカルじゃなくて。小松もドラマーであってギターやキーボードが弾けるわけではないし、僕もいろんな曲を思いつくけれど、小松や奥田みたいに上手じゃないんで。弾き語りとかも苦手ですし。だから、一人で全部できちゃって、完結できるっていう3人ではないので。 ――それがいいバランスをもたらしていると？ 西寺：3人でやることでそれぞれが得をするというか、そういうのが三者三様であると思うんですよね。それに、普段人の手伝いもしてるぶん、「ノーナとはなんぞや」みたいなものを爆発させることができると思うので。逆に、プロデュースした作品のほうが純粋な僕の色が出ちゃってたりするんですよ。ノーナは33.33％で合体してできているので、僕が言ったことが却下されることもあるし、「なんでやねん！」って思うこともありますけど(笑)。ほかでやるとそんなにアイデアが没になることってないので。やっぱり、それぞれの現場で呼ばれるのは「西寺郷太色」が欲しいということなんで新鮮じゃないですか。混ざり具合が。だけど、ノーナに関してはいい意味での不自由さというか、思った通りにいかないのが逆にいいんですよ。 ――それがあるとないとではだいぶ変わってきますよね。 西寺：もう年が年なので、明らかに俺の話が面白くないのに先輩だから笑ってるなとかも増えてきたので(笑)。おもしろくねえって言われることがおもしろいというか。基本は俺のくだらない一挙手一投足をサラッと流してる小松や奥田が、たまにどうしようもなくしょうもない瞬間にツボに入って笑ってるやん、みたいなのが嬉しいんですよね（笑）。それはある程度年とったらみんなあるといいますか、たぶんそういう年になったってことですよね。 ＜取材・文／日刊SPA!取材班＞ 【ノーナ・リーヴス】 95年5月、西寺郷太が「ノーナ・リーヴス」名義での活動を開始。ほどなく早稲田大学で同じ音楽サークルに所属していた小松シゲル、奥田健介が加入。1997年にワーナーミュージック・ジャパンからメジャー・デビュー。今年はメジャー・デビュー20周年を迎え、古巣ワーナーミュージック・ジャパンに復帰。3月にベスト・アルバム『POP’N SOUL 20～The Very Best of NONA REEVES～』を発表。11月25日にはデビュー20周年記念ライブ第３弾「渋谷ノーナ最高祭!!! 第三夜」をTSUTAYA O-EAST で開催 。