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あなたの「つらい今」も、いつか想い出に変わる――ある名曲が教えてくれたこと

いまの仕事楽しい?……ビジネスだけで成功しても不満が残る。自己啓発を延々と学ぶだけでは現実が変わらない。自分も満足して他人にも喜ばれる仕事をつくる「魂が燃えるメモ」とは何か? そのヒントをつづる連載第49回

音楽 中村一義という90年代から00年代にかけて活躍したシンガーソングライターがいます。彼の2枚目のアルバム『太陽』がリリースされた頃、私はちょうど中学三年生で数か月後に卒業を控えていました。

中学三年で、ある曲を聴いて魂が震えた瞬間


 中学生から高校生にかけては最も多感な時代です。小学生だった頃よりも行動の幅が広がり、大学生よりも現実に目を向ける必要がありません。学生という役割、勉強という役目こそあるものの、それ以降と比較して時間的にも精神的にも余裕があります。いわゆるモラトリアムです。このモラトリアムの間に、私たちは自分の個性や感性と向き合います。

 その自分の個性や感性と向き合える対象だったのが、私にとってはこの『笑顔』に収録されている「いつも二人で」という曲でした。卒業式の日、自宅に戻って聴いた時間は今でも鮮明に思い出すことができます。魂が震えた瞬間とはそういうものです。

 先日、その「いつも二人で」を聞き直す機会がありました。何度聴いても甦る唯一無二の感傷に浸っていると、突然、曲の最後にある「過ぎる今が想い出なら、いつも二人でいれるように」という歌詞の意味が閃きました。それは「相談業」という私の仕事を的確に表現していました。

つらい「今」も、いつか想い出に変わる


 私はこれまで何人もの方の悩みを伺ってきました。仕事の重圧、生きがいの喪失、発達障害というハンディキャップ、言葉の暴力を浴びせる旦那との離婚。人はみな、どこかの瞬間で苦しみや悲しみを経験し、これを抑圧します。「もうこんな思いはしたくない」と強い念が意識の奥底に沈み込み、それが回避願望という形で人生に反映されます。すると、もう逃げなくてもいい時期が来たとしても、なおそこから逃げ出しそうとしてしまいます。

 相談業はその抑圧に気づくためのお手伝いです。数か月後あるいは数年後、心の傷が癒えた時に、自分の苦しみや悲しみに向き合う瞬間がやってきます。私はその閉じられた自己が再び開かれていく過程に立ち会う助産婦に過ぎません。この抑圧の解放は、ただ認識するだけで起こります。「ああ、あの時の自分は本当に苦しかったんだ、辛かったんだ」としみじみと述懐できると、今まで見えなかった選択肢が見えてきます。これといって特別なことは何も必要なく、その見えている選択肢をただ普通に選ぶだけで、自分の生きがいを把握し、人間関係が整い始めます。問題には直接的なアプローチによる解決ではなく、間接的なアプローチによる解消という手段もあるのです。

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私たちを突き動かすもの

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