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「坊さんになるしか道はないと思った」インド仏教のトップに立つ日本人が半生を激白

 その後、山本貫主のすすめでタイでの修行を始めた佐々井氏。しかし、それも順風ではなかった。慣れない異国の地で煩悩にとらわれ、一時は現地で出会った女性と三角関係にまで陥ったという。タイにもいられなくなり、日本に帰るわけにもいかず、目指した地がインドだった。 エリイ:最初にインドに行かれたときはどんな感じだったんですか? 佐々井:もう51年前のことだが、当時のインドはパキスタンやベンガルからの難民が街に溢れていた。「大変な場所に来たぞ……」と。しかし、お釈迦様はこの国でお生まれになって仏様になり、道半ばでお亡くなりになった。そういう仏跡がインドにある以上、帰るわけにはいかない。 エリイ:インドにおけるカースト制度についてはどう思われますか? 佐々井:今のインドでは、インド人にせよ外国人にせよ「あいつは不可触民(※1)だ」と発言すれば、それだけで差別とみなされ逮捕されると憲法に記されている。しかし、だからといってカースト意識というものはそうそう消えるものではない。 ※1 不可触民……ヒンドゥー教が定めた4つの階級に分かれたインドの身分制度、カースト制度において“枠外”(アウト・オブ・カースト)とされている人たち。階級外の人たちは「ダリット(不可触民)」と呼ばれ、今もなおインド社会のなかで差別を受けている。佐々井上人は布教を通じて彼らへの差別撤廃を目指す エリイ:やはり根深いんですね。街中でも宗教間対立があるんですか? 佐々井:たまにケンカは見るけどね。それよりも仏教徒は就職させないとか、目に見えない部分での差別のほうがある。確かにインド憲法には宗教の自由、改宗の自由が書かれているけど、州が民族党と組んで改宗禁止法案を作って改宗を阻んでいる。 エリイ:インドで上人が行った集団改宗の様子を拝見したのですが、すごく印象的でした。日本ではあまり見かけない光景ですよ。 佐々井:聖地だからね。今、世界中探してもどこにもないだろう。インドの各州すべてから頭を丸めた人が集まってくるわけだから。 ※7/24発売の週刊SPA!のインタビュー連載『エッジな人々』から一部抜粋したものです 【佐々井秀嶺】 ’35年、岡山県生まれ。’67年にインドに渡り、’88年にはインド国籍を取得。ラジヴ・ガンディー首相(当時)からインド名「アーリア・ナーガールジェナ」を授与される。現在もインドに居住し、ブッダガヤーにある大菩薩寺の返還運動などを精力的に行う 【エリイ】 コンテンポラリー・アートユニット「Chim↑Pom(チンポム)」のメンバー。映像作品やインスタレーションなど手法を問わず独創的かつ行動的な作品を発表し続け、国内外にファンが多い。ツイッター「@ellieille」、インスタグラム「elliechimpom」 取材・文/中村裕一 撮影/尾藤能暢
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週刊SPA!7/31号(7/24発売)

表紙の人/ 松本穂香

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