自衛隊の定年は53歳! 年金受給の65歳までどう暮らしているのか?
「自衛隊ができない40のこと 39」
自衛官の定年年齢は、階級によって異なります。幕僚長は62歳、将官・将補クラスは60歳です。しかし、隊員不足がもっとも顕著なのは、現場の曹士クラスです。曹クラスの定年は53歳です。公的年金の受給開始年齢は原則65歳ですから、曹クラスの自衛官は定年後10年以上にわたり年金の受給もできず、生活に苦労することになります。
昭和30年代に年金の改革があり、恩給制度がなくなりました。かつて、ある一定年数働いた旧日本軍の軍人の功労に対し、国は恩給を出していました。さらに、夫が戦争などで戦った後に残された60歳以上の妻にも、普通扶助料という年金が出ていました。戦争などで怪我を負った場合も、公務傷病恩給が出ました。旧日本軍の軍人になりたいと思う人が多かった理由として、国が具体的に軍人の功労に応えていたことが大きいと思います。ここが、自衛官に対しての処遇と全く違うところです。
そもそも、年金と恩給では全く意味合いが違います。年金は、自衛官自身が掛け金を払って老後に備える制度です。現在の日本は、命を懸けて国を守るという崇高な職務に対する敬意を払い、その恩に報いるという考え方で構築された制度はありません。軍人は国のために命をかけ国民を守る職業です。現代の日本人がそのことに対する敬愛や恩に報いるという気持ちを持たない原因の一つはこの制度改悪にあったと思います。さらに残念ながら自衛官の退職金は減額され続け、これも自衛官が辞める理由の一つです。
米軍の場合は、軍人がある一定期間働けば、一生涯恩給を払ってくれます。その恩給が下支えにあるから、退職後に他の仕事をしても全体収入は多くなるという仕組みです。まさに「国家のために働いてくれた恩に報いている」感じですね。
国家公務員も2019年から段階的に定年年齢が65歳と延長されるようです。自衛官以外の国家公務員は、年金受給年齢まで生活に困ることなく働き続けることができるのです。53歳で定年を迎えるのは自衛官だけでその定年延長はわずか数年です。公務員の中で自衛官だけが年金受給まで10年ほどの生活に不安を抱えることになります。しかも、退官年齢を越えた自衛官は、若い自衛官と違い、体力的に難しい仕事が多いはずです。現場で活躍する曹士クラスを増やすために定年延長をするとしても、完全に方法を見誤っています。
定年があまりに早く、本来なら他の国家公務員であればもらえたはずの給料がもらえないということで、その収入補填として、若年給付金制度というささやかな補填制度が自衛官にあります。自衛官時代の年収が最も低い場合の支給額の総額は1000万円くらいです。これが52歳から年金開始年齢の65歳までの13年間の収入補填なのです。月割にすると10万以下になることもあります。自衛官で定年まで汗水たらして国のために働いてこれです。自衛官は老後に光がみえない仕事なのです。
しかも、この若年給付金は「収入が基準よりよくなれば、一度もらった給付金を返納しなさい」という制度です。1回目の給付の時に、その年の年収を調査します。その年収が自衛官だった時より良ければ減額されたり、2回目の支払いがなくなったり、さらには1回目もらった給付金を返納しろと言われたりもするのです。「一度渡した給付金を返納という場合があるなんて!」と思います。退職後の「働いたら、負け」制度なのです。
そもそも、53歳で定年では65歳まで年金なしです。自衛官退職後の生活は、この程度の給付金では全く足りません。想像してください。50代前半、子供が大学にいったり、結婚したりする、お金が一番出て行く時期です。お金の一番かかる年代に収入が閉ざされるのでは、「恩に報いる」どころか「なにかの呪詛」のようにしか見えません。
Contents [hide]
自衛隊の定年は何歳?
自衛隊定年延長後の若年給付金は雀の涙
1
2
おがさわら・りえ◎国防ジャーナリスト、自衛官守る会代表。著書に『自衛隊員は基地のトイレットペーパーを「自腹」で買う』(扶桑社新書)。『月刊Hanada』『正論』『WiLL』『夕刊フジ』等にも寄稿する。雅号・静苑。@riekabot
記事一覧へ
『自衛隊員は基地のトイレットペーパーを「自腹」で買う』 日本の安全保障を担う自衛隊員が、理不尽な環境で日々の激務に耐え忍んでいる…… ![]() ![]() |
記事一覧へ
この連載の前回記事
【関連キーワードから記事を探す】
発達障害を公表したら“職場いじめ”の対象に…県庁勤務の男性(45歳)が激白「あなたが悪いと一蹴され」
「新卒の給料は19万」元消防士が語る厳しい懐事情。転職するにも「他の職業で活かせるスキルがない」
「中途採用なのに職歴ゼロ」地方公務員たちの“民間とは違う”働き方のリアル
非正規率は民間企業より高いケースも「手取り月20万円未満」非正規公務員の苦境
46歳で早期退職した元自衛官、59歳で「年収1500万円」に到達するまで
「前の職場では〜」を連呼する社内の嫌われ者。どの職場にもいる“転職出羽守”の実態とは
貯金200万円を切り崩す65歳のリアル。年金8万円、退職金もなかった
大手メーカーを早期退職した59歳男性「退職金4000万円上乗せ」も大後悔のワケ
地方議員の兼業はおいしい?公務は年38日で報酬762万円
シニア求人、10~20年後の未来予測。どんな仕事がある?
教員の給料を時給換算してみたら“驚きの結果”に。勤続年数によって「最低賃金を下回る」場合も
夏休みに“小学校の先生”は何してる?「8月は休みでOKの学校も」知られざる実態とは
「ジェットスター・ジャパン」でストが頻発する理由。ライバルのLCC・ピーチとの違いとは【訂正アリ】
「逆境を乗り越える力を身につけたい」女性24歳の悩み
現役自衛官はなぜ勲章をつけていないのか?海外軍人と大違いの実情
NTTを定年退職後、関連会社での再雇用を選んだ65歳。年収は900万円から380万円に減ったが「いいタイミングでリタイアできた」
「まさか自分が肩叩きされるとは…」退職金1400万円、51歳で早期退職した男性の“その後”
早期退職、再雇用、そして“出戻り”も増えている。ルート選びが運命の分かれ道に
“ちょこっとバイト”で60代を豊かにする8業種。コミュニケーション苦手でも時給1200円から
退職金が20年前より1000万円以上もダウンしていた。正社員の絶望的な未来
コロナ最前線で戦う自衛隊は日米同盟を脅かす「リスク」になる
日本の防衛費「GDPの1%」が中国の軍事的台頭を生んだ/江崎道朗
「戦闘機を操縦中に読書」よりヤバい。日米地位協定の真の問題点
日本が攻撃されても、米軍が反撃してくれるとは限らない/江崎道朗
欧米諸国との連携に及び腰の日本。韓国と同じ道を歩むな/江崎道朗
タイに移住した36歳男性が明かす、“食費だけで10万円近い”リアルな生活費「屋台飯はあまり食べなくなった」
「高齢者はさびしいから騙される」老親を詐欺から守るための基礎知識
「まさか老舗デパートの外商が詐欺とは…」母に計数千万円のものを売りつけた悪質手口
終活セミナーで騙される高齢者が続出中!「その場で800万円の墓石を契約してしまいました」
高齢者を狙う「健康食品の送りつけ商法」とは?「一度でも代引き払いに応じたらカモだね」
この記者は、他にもこんな記事を書いています