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寂しくたっていいじゃない。世界のおっさんへ、少し早いメリークリスマス――patoの「おっさんは二度死ぬ」<第22回>

その3 天使のクリスマス

「最後は俺ってわけだ」 そしてついにリーダー格の赤シャツのエピソードが始まった。いつのまにか居酒屋店内の客は僕たちだけになっていた。 「俺は天使になったんだ」 赤シャツは訳の分からないセリフで話を始めた。 彼はとある木材メーカーで働いていたそうだ。いつも工場というか工房みたいな場所で木材を運んでいたが、ある時、事務員として妙齢の女性が入社してきたそうだ。男っ気ばかりの職場に咲き誇る一輪の花、その女性を一気に好きになったそうだ。 たいして用事がなくとも事務所により、ちょっと世間話をするなどしてアプローチを続けたそうだ。そうこうしているうちに、「パソコンを買いたいんだけど何を買っていいのか分からない」と相談を持ち掛けられたそうだ。 「俺だってパソコンなんて分からねえよ。でもな、分かるって言うしかねえよ」 こうして二人でパソコンを買いに行くことになったらしい。しかもクリスマスイブにだ。その日が休みということもあったし、寸志ほどだがボーナスが出たという事情もあった。何を思って向こうがイブを指定したのか知らなかったが、チャンスだと思った。 赤シャツは少しでもオシャレをしていこうと、ダウンジャケットを買った。なぜか異様に安いダウンジャケットが近所のスーパーの片隅にある洋服屋でセールになっていたからだそうだ。それを着こんで待ち合わせ場所に向かった。 「楽しいデートだったよ」 パソコンを選ぶなんて約束は表面上の名目に過ぎずなかったらしい。彼女はなかなか電気屋に行こうとせず、お茶をしたりご飯を食べたり、ウィンドウショッピングをしたりだったらしい。ただのデートが当たり前のように展開された。クリスマスに彩られたウィンドウたちが、こんなにも鮮やかで煌びやかなものに見えた。百貨店の飾りが温度を感じるほど暖かく思えたようだ。 「ただよ、異変が起こったのはそこからよ」 二人でクリスマスに彩られた街を歩いていると、ファサっと羽が見えたらしい。白い、小さな羽だ。それが空中を漂っていた。 最初は鳥でもいるのかな、それともゴミが舞い上がっている、そう思ったがどんどん羽の量が増えてくる。おまけに、カフェに行っても本屋に行っても、どこに行っても羽がまとまわりついてくる。 「ダウンジャケットから出てたんだな。安物だから」 縫いが甘かったのか背中あたりからめちゃくちゃでてくる。最初こそはちょっとくらいは出てくるものだろうと納得していたけど、そんなレベルじゃない感じで出てくる。出てくるたびにはじめの一歩の1巻みたいにシュパンと手掴みしていたが、もうどうしようもないレベルになっていた。 「もしかして、羽、出てません?」 ついに女性に気づかれ、そう言われた。妙に恥ずかしかったらしい。大量に羽が出るような服を買ってきたと思われたくなかったらしい。気が動転した赤シャツはとんでもない返答をした。 「俺、天使だからさ」
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自分が天使であるという前提で話をして…
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