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寂しくたっていいじゃない。世界のおっさんへ、少し早いメリークリスマス――patoの「おっさんは二度死ぬ」<第22回>

天使というか電子レンジみたいな顔しやがってそう言ったらしい。服じゃなく、自分が天使だからどうしても羽が出てしまう、そういう主張だ。 さらに悲劇は終わらず、そう言ってしまった手前引っ込みがつかず、その後のデートはずっと自分が天使であるという前提で話をしていたらしい。最終的には人間界に肩入れしすぎて地上に堕とされた堕天使ルシファーという設定だったらしい。 「木材を切る堕天使ルシファーって噂されてな……仕事辞めたよ」 堕天使は寂しそうに笑いながらそう言った。 「会社からも堕天使になったわけですね」 僕のコメントも良く分からない。 おっさんたちはクリスマスの失敗を肴にハイボールを飲んで笑っていた。 いつからだろうか。クリスマスは幸せなものではならないとなったのは。 恋人と過ごし、家族と過ごし、暖かい幸せに包まれるCMのようなクリスマスが正義とされるこの世の中はどこかおかしい。まるで脅迫されているかのようにすら感じる。 おっさんたちのクリスマスはどこか物足りない。 何かが満たされず、何かが不足し、何かが悲しい。けれども、それもクリスマスの形なのだろうと思う。誰かとバカみたいな話をしながら笑い合えるクリスマスだって、きっと素晴らしいものなのだから。 「でも、こうやってイカを食べながらバカな話をするクリスマスもいいですよ」 僕がそう言うと、おっさんたちは笑った。 「イカ食ってるのお前だけじゃねえか。最後のイカを奪いやがって」 そう言って笑っていると、店の大将がもう一皿、イカ焼きを持ってきてくれた。 「もうないんじゃなかったの?」 赤シャツがそう言うと、大将は不愛想な表情を崩さずに言った。 「店が終わったら自分で食べようと思ってたやつだ。やるよ。メリークリスマス」 おっさんたちのクリスマスはどこか物足りない。 しこたま酒を飲んで潰れているおっさんたちに別れを告げて店を出ると、雪が降ってきた。 「ホワイトクリスマスだ!」 手のひらに落ちた雪は、雪というにはずいぶんと水っぽいものだった。 「こりゃ、雪じゃないな、みぞれだな」 やはりおっさんたちのクリスマスはどこか物足りない。けれどもいいものだ。 クリスマスを忌み嫌う必要なんてない。誰かを羨む必要なんてない。一人でもいいじゃないか。寂しくてもいいじゃないか。いつもと変わらず酒を飲み、足りないクリスマスを楽しむべきなのだ。 世界中のおっさんたちへ。メリークリスマス。 【pato】 テキストサイト管理人。初代管理サイト「Numeri」で発表した悪質業者や援助交際女子高生と対峙する「対決シリーズ」が話題となり、以降さまざまな媒体に寄稿。ブログ「多目的トイレ」 twitter(@pato_numeri
テキストサイト管理人。初代管理サイト「Numeri」で発表した悪質業者や援助交際女子高生と対峙する「対決シリーズ」が話題となり、以降さまざまな媒体に寄稿。発表する記事のほとんどで伝説的バズを生み出す。本連載と同名の処女作「おっさんは二度死ぬ」(扶桑社刊)が発売中。3月28日に、自身の文章術を綴った「文章で伝えるときにいちばん大切なものは、感情である 読みたくなる文章の書き方29の掟(アスコム)」が発売。twitter(@pato_numeri

pato「おっさんは二度死ぬ」

“全てのおっさんは、いつか二度死ぬ。それは避けようのないことだ"――

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