更新日:2019年04月03日 00:42
ライフ

ゾンビに間違えられる経験は、平成でもう終わりにしたい――patoの「おっさんは二度死ぬ」<第37話>

ゾンビイベントを終えて、一息つくはずだったが……

 このキャンプは、普通のキャンプとは違い、イベントがセットになったキャンプと言えば分かりやすいでしょうか、とある仕掛けが人気のイベントでした。まあ、あまり多くを語るとネタバレになってしまうので最低限に留めますが、普通にキャンプをしていたらキャンプ場がゾンビに襲われる、というものなのです。  キャンプ場をゾンビが襲う、そんなことして何になるんだよ、と思うかもしれませんが、これがやってみると非日常的で面白い。知らない人とグループを組んで、テントを立てたり、食事の準備をしたり、そういうことをしていると突如としてゾンビが襲ってくる。もちろん、このゾンビは主催者サイドが準備したスタッフなのだけど、メイクも演技も凝っていてかなり迫真な感じだ。  さらには、ゾンビではない運営スタッフの人たちも迫真の演技で、すごい緊急事態が起こっている、と緊迫感を演出してくるのです。なんか本当にとんでもないことが起こっている、本当にゾンビに襲われている、くッ、携帯も繋がらない、みたいな気分になってくるのです。  そうこうしていると、いろいろと話が展開していって、やれキャンプ場の外で事故した車まで食料を取ってこいだとか、ワクチンを取ってこいだとか、そういったミッションが課されるわけです。これらをグループの仲間とクリアしていくわけですが、当然、そこにはゾンビが山ほどいて、迫真の演技で襲ってくるわけです。  この辺が醍醐味でしょうか。やはりゾンビの中に突入していって食料を取るとか、さながら自分が映画の主人公になったような気分がしてきます。おまけに、知らない人だったグループの仲間も脇を固める重要なキャストに思えてきます。  ただ、どんどんミッションが過激になって行って、風雲たけし城みたいな感じになってくるのです。平均台があったり、とてもじゃないが昇れない反り立つ壁があったり、その辺のギミックをゾンビをかいくぐりながらクリアせねばならず、これがおっさんにはかなりきつかった。他の若い人たちはピョンピョンクリアしていくのに、やっぱりおっさんにはきつかった。  無理がたたったんでしょうね。そのアトラクションの最後に足をひねっちゃいましてね、もうこの後のミッションはできない! みたいな状態になってしまったのです。  ただ、僕らのグループは本当に映画の主人公グループみたいに結束が高まってますから、グループ内のギャルっぽい女の子が「足を痛めてるならわたしが支える!」とかいって腕を組んできましてね、まあ、柔らかいですよ、ゾンビ最高だな、と、そう思ったわけです。  「いやー、足を痛めちゃったなー」  その日のミッションがひととおり終わり、グループのメンバーと談笑していました。闇夜に焚火の灯りが揺れ、スピーカーから流れるノリの良い音楽と草木の陰に潜む虫の声がアンサンブルを奏でていました。  「いよいよ1日目も終わり、そろそろ寝る準備をするか」  なんて思っていたのですが、実はそうではなかったのです。ここがこのイベントの最大のキモなのですが、なんと、参加者と思われたサイドにも運営の息がかかったスタッフが紛れ込んでいるのです。そいつがいきなり発症してゾンビになるのです。  もうパニックですよ。  普通に、今日はよろしくお願いします、とか挨拶を交わし、みんなで呼び名を決めましょう、とかいって「アニキ」とか呼ばれ、ミッションをこなしていった頼もしい仲間が、突如としてゾンビになるのです。  「ちょっと具合が悪い」  とか序盤から伏線を張りつつ、突如として豹変するのです。  「ヴーヴーヴーヴーヴーヴーヴー」
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ギャルが悲鳴を上げるので、僕はしぶしぶゾンビの振りをした
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テキストサイト管理人。初代管理サイト「Numeri」で発表した悪質業者や援助交際女子高生と対峙する「対決シリーズ」が話題となり、以降さまざまな媒体に寄稿。発表する記事のほとんどで伝説的バズを生み出す。本連載と同名の処女作「おっさんは二度死ぬ」(扶桑社刊)が発売中。3月28日に、自身の文章術を綴った「文章で伝えるときにいちばん大切なものは、感情である 読みたくなる文章の書き方29の掟(アスコム)」が発売。twitter(@pato_numeri

pato「おっさんは二度死ぬ」

“全てのおっさんは、いつか二度死ぬ。それは避けようのないことだ"――


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