更新日:2023年03月28日 09:01
ニュース

ホルムズ海峡、日本タンカー襲撃事件の“真犯人”は?

米国・イラン緊迫化 これまでの主な流れ

「イラン犯行説」に懐疑的

 5月12日に起きたサウジのタンカー襲撃事件も、いまだ「攻撃主体」が特定されていない。当時も米国のボルトン大統領補佐官が早々に「イラン犯人説」を唱えていたが、イランはこのときも事実関係を完全否定し、米国政府を痛烈に批判している。  ただ、その一方で14日に起きたサウジの石油パイプラインを標的にした無人機攻撃では、のちにイランが支援しているとされるイスラム教シーア派武装組織「フーシ」が犯行声明を出しており、イランの関与が拭いきれないのも事実なのだ。中東情勢に詳しい放送大学名誉教授の高橋和夫氏が話す。 「フーシはイエメンの反政府勢力で、独力で製造したとされる弾道ミサイルがイランの巡航ミサイルに酷似しており、イエメン正規軍の軍事パレードを攻撃したドローンもイラン製ではないかと疑われていることからも、イランがフーシを資金面で支えていること自体は間違いない。  ただ、彼らがイランの指示通りに動く配下の組織と断定することは早計で、’14年にイエメン内戦で首都サヌアに侵攻した際もイランは制止したがフーシはこれを無視しています。  また、サウジのパイプライン襲撃事件のときも、イランはわざわざイランの指示ではないとする声明を出しており、本音ではイランはフーシと距離を置きたがっているのではないか。今回の襲撃事件はイランが『攻撃主体』とは考えにくく、安倍首相の対話による解決を否定する勢力がイランの仕業に見せかけたものと推測できる。  個人としてはイラン強硬派として知られるボルトン大統領補佐官、国としてはイランと敵対するイスラエルやサウジにも動機があり、これらの国の情報機関が工作に乗り出したとしても不思議はない」 「イラン犯行説」を懐疑的に見るのは高橋氏だけではない。駐イラン大使や外務省国際情報局長を歴任した評論家の孫崎享氏が話す。 「イラン政権内では対米強硬派が勢力を増しており、仮に今回のタンカー攻撃が、イランあるいはその影響下の組織によるものだとしても、その目的はホルムズ海峡の封鎖はできないまでも、通行に障害を及ぼすことができるのだという示威行動で、米国にシグナルを送っていると見るべきでしょう。  一方で今回の件を受けて、イラン革命防衛隊の元司令官が分離主義を掲げるイランの反政府組織『ジェイシ・アドリ』の関与を指摘し、米国の名前こそ出さなかったものの『“特定の国”が支援している』と明言しています。  ’64年に米国は米軍艦艇が北ベトナム軍に攻撃されたとしてベトナム戦争に本格介入したが、その後、ニューヨーク・タイムズ紙が『ペンタゴン・ペーパー』を入手し、戦争の口実をつくるための謀略だったことを白日の下に晒した歴史もある(トンキン湾事件)。  トランプ大統領になって、エルサレムの首都認定やゴラン高原でのイスラエルの主権認定を行い、イラン核合意離脱やイラン革命防衛隊のテロ組織認定もやってのけるなど、イスラエルが望む政策に大きく舵を切っており、今の時点で『イラン犯行説』と断定すべきではない」  安倍首相との会談でイランの最高指導者・ハメネイ師は「核兵器を製造も所有も使用もしない。その意図はない、すべきではない」と話したという。だが、安倍首相がイランに訪れたタイミングでこのような事態が起きたことを考えると、複雑にからみ合う米国と中東を巡る激しいせめぎ合いに、すでに日本が巻き込まれたことは間違いなさそうだ。 <取材・文/週刊SPA!編集部 写真/AFP=時事 時事通信社> ※週刊SPA!6月18日発売号「今週の顔」より
1
2
週刊SPA!6/25号(6/18発売)

表紙の人/ 岡田准一

電子雑誌版も発売中!
詳細・購入はこちらから
※バックナンバーもいつでも買って、すぐ読める!
おすすめ記事