僕はただ、サムライのように大便をしたかっただけなんだ――patoの「おっさんは二度死ぬ」<第55話>
立川のトイレの、他と違う素晴らしい点とは
もちろん、このトイレもそこまで古くはないし、小綺麗な感じなのできっちりセンサーがついている。便器から立ち上がると無慈悲に分身を流してしまうあのセンサーだ。しかしながら、このトイレだけ、なぜかけっこうなタイムラグがある。
立ち上がって、カチっというのだけど、全然水が流れない。あれ? と思ったタイミングからもう一呼吸くらい置いて、やっとジャーっと水が流れ始めるのだ。このタイムラグが実に素晴らしい。称賛の声を送りたい。
立ち上がってセンサーが動いたとしても分身を愛でる時間があるのだ。とはいったものの、愛でる時間なんてものはそこまで重要でもなくて、本質はもっと別の部分にある。
サムライ的大便ができる、という点だ。
例えば、荒野の決闘なんかで、死ぬほど強い侍がすれ違いざまに相手を斬ったとする。まだ相手は立っているのにサムライは背中を向けたままチャキン、と刀をしまい、歩き出す。そしてタイムラグがあって相手がグフッと倒れる。これが“背中で受ける”というやつだ。
スーパーヒーローがバトルにおいて、敵役である巨大ヒューマノイドがまだ立って「うぬ?なにをした?」とか言ってるのに「終わりだ。しょせんお前は人類には敵わない。悲しき存在よ、さらば」とかなんとか言って、歩き出す。
「なにをばかな、うぐ、ぐわーーー!」ドゥ―ン、敵は大爆発、それを背中で受けるわけだ。これがめちゃくちゃカッコいい。
それと同じように、流れるウンコを背中で受けたいのだ。
つまり、ウンコをして、立ち上がり、死ぬほどの速さで尻を拭き、手を洗ってトイレを出る。そのタイミングで個室からジャーっとウンコが流れる音がする。完全にサムライ。めちゃくちゃかっこいい。
ただし、一般的なトイレの場合は立ち上がった段階で無慈悲なる咆哮が始まってしまう。容赦はない。これでは背中で受けられない。
けれどもこのトイレは違う。どういう仕組みなのか分からないけど本当にセンサーの反応が遅い。めちゃくちゃタイムラグがある。これは背中で受けることができるんじゃないか。そう思わせてくれるのだ。