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僕はただ、サムライのように大便をしたかっただけなんだ――patoの「おっさんは二度死ぬ」<第55話>

しかし僕はサムライになれなかった

 蹴破らんばかりの勢いで個室のドアを開ける。出口までの最短ルートを模索しつつ、ポケットからウェットティッシュを取り出す。  足早に、それでいて着実に一歩一歩と出口へと歩を進める。ここで決して走ってはいけない。サムライは走らない。悠然と構えている。  まだ流れるな。もう少しだ。まだ流れるな。いける。頼む。  やったー! ついに出口に到達した! まだ流れていない!  あとは流れる音を背中で受けるだけ。それで完成だ!  と思ったら、今度は流れる音がしてこない。なんで? まさかセンサーが反応しなくて流れていなかった? 慌てて引き返すと、出口手前ですれ違った人が今まさに僕のいたブースに入ろうとしていた。 「いけない!」  このままでは流れていないウンコを見られてしまう。出したてホヤホヤのウンコを見られてしまう。焦った僕はとっさに声をかけた。 「すいません、それ僕のウンコです」  たぶんだけど、僕が80歳まで生きて、さらに転生して80歳まで生きたとしても、ここまで熱烈にウンコの所有権を主張することはもうないと思う。  結局、サムライウンコチャレンジは失敗に終わった。なぜかセンサーは反応したのに水が流れてこなかった。もしかしたら素早く動きすぎてセンサーが反応しきらなかったのかもしれない。  今度は、立ち上がるモーションだけはゆっくりするようにして再挑戦したい。  ブースに入ろうとしていた人が「ウンコ流してねえじゃねえか、おまけに紙がない、尻拭いてないんだ」という顔でマジマジと僕を見ていたのだけど、「すいませんすいません、サムライにチャレンジしていて」と意味不明な供述をして謝るしかなかった。  まあ、そういうこともある。不可解に思うかもしれないし、他人のウンコを見せられて迷惑に思うかもしれないが、ウンコだけに水に流して欲しいものだ。これからも僕の挑戦は続いていく。 ロゴ・イラスト/マミヤ狂四郎(@mamiyak46)テキストサイト管理人。初代管理サイト「Numeri」で発表した悪質業者や援助交際女子高生と対峙する「対決シリーズ」が話題となり、以降さまざまな媒体に寄稿。6月29日、本連載と同名の処女作「おっさんは二度死ぬ」(扶桑社刊)を上梓。ブログ「多目的トイレ」 twitter(@pato_numeri

pato「おっさんは二度死ぬ」

“全てのおっさんは、いつか二度死ぬ。それは避けようのないことだ"――

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“全てのおっさんは、いつか二度死ぬ。それは避けようのないことだ"――

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