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スナックに集う独居老人が吹聴するインチキくさい武勇伝、目的は「性器を舐めたい」?

長い人生で培ってきた叡智をそれとなく後進に伝え、魂が帰依するような穏やかな老後を淡々と過ごす…そんな言葉はスナックに吹き溜まる独居老人には無縁らしい。俺のカネ、俺の健康、俺の権利、そして捏造された過去の武勇伝――老人たちのオレオレ主義に耳を傾け、今宵も精神をすり減らす筆者の苦悩をお聞きください。

第九夜 さみしい奴らPart.4

「まんこ舐めさせろ!」  かれこれ三時間ぐらいその言葉しか聞いていない。  今日はだいぶ酔っている。そろそろわたしもうんざりして、「やだよバーカ」と「ハイハイ」という何の捻りもない単純な返答を繰り返していた。  ここから会話を展開することは数時間前に既にやったし、それで多少盛り上がりもしたが、最終的に「舐めさせろ」に戻ってきてしまうし、周りのお客もちょっと引き気味なのでもう放っておくしかない。 「なんだよ。偉そうに」  老人は少し呂律の回らなくなった口でそう言うと、グラスに手を掛けたまま壁に寄り掛かった。案の定グラスの酒が零れた。ファック。  彼の名は中島。来る時は週に何度も連続して来店し、パタリと来なくなって死んだかと思うとまたやってくる、七十手前の虚言壁のある老人だ。  典型的な武勇伝おじさんである本人の話によると、IT黎明期には相当ぶいぶい言わせていたようなのだが(これはたぶん本当)、周りに迎合することを嫌い、妥協というか譲歩することを知らない反骨精神の塊みたいな性格と、俺が一番正しくて凄いみたいな謎の自信に満ち溢れた性格故に命を狙われ(このへんは怪しい)、今は犬二匹とよくわからない芸術を嗜みながら全うに暮らしているが、今や大物となったかつての戦友たちも何かっちゃあ自分を頼りにしてくるし、様々な催しに来賓として招かれるし、つまるところ俺以上に良い男は日本にいないらしい。 「一件一千万超えの仕事がどんどん舞い込んできて忙しかったんだよ」  そんなことをよく言っているが、現在何をやっているのかよくわからないし、一本四千円程度の芋焼酎のボトルを入れることすら渋るのを見ると豪語するほど裕福ではないように見える。ITオンチのわたしにとって彼の過去話はそこそこにちんぷんかんぷんなので、周りの皆がさして興味もなさそうに聞いていることに気付かず、俺のレベルまでついてこれる奴がいない、と喋りまくる彼の滑稽さを眺めて楽しむことによって心の安寧を図っている。  今ではそんな調子だが、はじめの頃はそりゃもう鬱陶しくて、どちらかというとお客の話を真面目に聞くタイプのわたしは彼が来店する日は精神の疲弊が半端なかった。
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中島の武勇伝には女も登場してくる
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