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閉店続くデパート業界が自滅したわけ。渋谷PARCO、銀座SIXも今は好調だが…

 百貨店、デパートの閉店が相次ぎ、ニュースになる昨今。インバウンドバブルに沸いたのも束の間。今、百貨店業界はかつてないほどの苦境に立たされている。実情を探った。
銀座SIX

苦境といわれる百貨店の中にあって、銀座SIXの健闘は目を引くのだが、インバウンドに頼りすぎという意見も……

閉店が続く百貨店業界に未来はあるのだろうか

 渋谷カルチャーの代名詞的存在だった渋谷PARCOが、11月22日リニューアルオープンした。建物の老朽化により’16年8月に一時閉店したが、今回衣料品はもちろんアニメやゲームに関連したショップや劇場も携え、カルチャーの発信地として再出発する構えだ。  開店初日は待ちわびたファンでごった返し、長蛇の列をなしていた。10代の頃から渋谷PARCOに通っているという43歳の女性は「私たちの世代は、渋谷といえばPARCO。復活は嬉しいですね」と、久しぶりに味わうPARCOの雰囲気に笑みをこぼした。  PARCOのオープンに活気づくデパート・百貨店業界だが、現在彼らは受難の時代にある。下記の閉店リストを見れば一目瞭然だが、大手百貨店は地方や郊外の店舗を相次いで閉鎖しており、地方の地場百貨店は大手以上に厳しい経営を強いられている。

<閉店した主な百貨店・デパート>

2013年 大丸新長田店(兵庫県)     そごう呉店(広島県) 2015年 熊本県民百貨店(熊本県) 2016年 東武百貨店ソラマチ店(東京都)     マルカン百貨店(岩手県)     西武百貨店旭川店(北海道)     そごう柏店(千葉県)     千葉パルコ(千葉県)     大丸浦和パルコ店(埼玉県) 2017年 十字屋山形店(山形県)     三越多摩センター店(東京都)     三越千葉店(千葉県)     丸栄(愛知県) 2018年 伊勢丹松戸店(千葉県)     井筒屋宇部店(山口店)     三越木更津店(千葉県) 2019年 一畑百貨店出雲店(島根県)     さとう福知山駅前店(京都府)     ヤナゲン大垣本店(岐阜県)     山交百貨店(山梨県)     大丸山科店(京都府)     伊勢丹府中店(東京都)     伊勢丹相模原店(神奈川県)

「殿様商売」を続け百貨店は自滅した

 百貨店の衰退は’00年のそごう倒産から顕著になり、’99年に311店あった百貨店は’20年中に200店舗を割る勢いだ。実際、都内百貨店の従業員も「爆買いの外国人を敬遠して日本人の客が来なくなった。いまやテナント売り上げは爆買いブーム時の半分以下の月もある」と肩を落とす。  そんな苦境にあえぐ百貨店に対し、ファッション流通に詳しい小島健輔氏は「衰退は百貨店が堕落した当然の帰結」と指摘する。 「’72年から’84年にかけて、DCブランドを頂点とするファッション消費の大ブームがありました。作れば売れる状態で、毎年商品の値上げが続いていたんですが、これを背景に、’80年代初期まで百貨店は商品を買い取って自前で販売していたんです。しかしこのブームが下火になったことで、在庫リスクを恐れた百貨店は、買い取りから委託仕入れへの切り替えを各アパレルメーカーに要求しました。これだと返品が可能ですから、自らは在庫リスクを取らずに商売できるというわけです」  だが、リスクは誰かが負わなければならない。百貨店が身軽になったぶん、重荷を背負ったのはメーカーだった。そしてそのしわ寄せは消費者につけ回しされた。 「在庫リスクを抱えることになったブランドは、原価率を下げざるを得ない。買い取り時代の生産原価率は一般的に43%ほどでしたが、委託仕入れに対応したことで10ポイントほど落ちています。その結果、値段が高いわりに低品質な商品が並び、お得感が劣化しました。顧客への裏切りと言えますね」  そしてこの顧客不在のビジネスは、’91年のバブル崩壊を受けて、さらに加速していく。 「売り上げが急落した百貨店は利幅を大きくして利益を確保しようと、掛け率(※販売価格に対する百貨店への納入価格の比率)を下げろと各メーカーに要請したんですよ。私の当時の調査では、百貨店は掛け率を毎年2%ほど切り下げ、’92年に平均して72%ほどだったものが、’00年には60%を切るまでに落ちてしまいました。それだけ百貨店の取り分を増やしていったということです」  要するに、百貨店は売り上げの4割を持っていっているのだ。すると当然、メーカー側はさらに原価率を下げざるを得ない。 「それまで百貨店の商品は国内生産がほとんどでしたが、中国への生産移転の動きが一気に加速し、素材の質も落ちました。これにより、百貨店に並ぶ商品の原価率は婦人服で20%、紳士服で18%まで切り下がり、素人目にもわかるほど割高なものになってしまったんです。ちなみに紳士服の青山やアオキの原価率は36%程度でしたから(※現在でも33%程度)、同じ品質のスーツなのに、百貨店は倍の値段をつけているということ。こんな殿様商売、あり得ないでしょう」  そんな状況下、’00年に大店法が廃止され、大店立地法が施行されたことで郊外に大型ショッピングモールが急増。さらにAmazonやZOZOTOWNなどのECサイトも隆盛だ。だがこうした“黒船”を目の前にしても、当の百貨店が危機感を覚えることはなかったと小島氏は手厳しい。 「モールは安物を売る場所、試着をしないECは成功するはずがないとタカをくくり、自分たちのブランドとビジネスモデルに根拠のない自信を持っていました。百貨店は思い込みとプライドしかない最低のビジネスマンの集まりです」  自らの地位にあぐらをかき、百貨店は自壊を選んでいるのだ。
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中国ではデジタル百貨店が…
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