サイバーエージェント傘下、異色プロレス団体の人気は“渋谷のギャル”から始まった
『DDTプロレスリング』を知っているだろうか。その名の通りプロレス団体であるが、親会社はサイバーエージェント。そんな業界でも異色な存在であるDDTの社長を務めるのが、高木三四郎だ。
だ
――まずは、現在のプロレス業界の中でのDDTはどういう立ち位置でしょうか。
高木:ざっくりいうと、ベンチャー的なプロレス団体。プロレスってカルチャーとしてみたら、野球やサッカー、相撲と同じような人気ジャンルなんです。その中でもプロレスは、スポーツなり、格闘技なり、エンターテイメントの部分を併せ持つ特殊なジャンル。
その中で、DDTは新興勢力です。「メジャーってなんぞや」と聞かれたら、新日本プロレス、プロレスリング・ノア、全日本プロレス。既存の大手団体ががっちりしたストロングスタイルで、アスリート的観点を取ったプロレスだとしたら、新興勢力はショービジネスにのっとったエンターテイメントと言えるのではないでしょうか。
――2017年にサイバーエージェントの傘下になりましたが、不安はなかったんですか?
高木:全くなかったです(きっぱり!)。 僕らがやっていることって、コンテンツビジネスだと思っています。新日本プロレスさんが、ユークス(新日本プロレスの前親会社)さんの資本下に変わったのが、会社主体の経営の始まり。DDTはそれを目指していきたかったので、サイバーエージェントの傘下に入ったっていうのはありますね。
――DDT設立のいきさつは、どういう経緯だったんですか。
高木:PWCというプロレス団体が解散しちゃって、行き場がなくなったから団体を作った。だから、僕自身が経営者になりたくて団体を立ち上げたわけではなかったんです。それに、経営って結構大変なんですよ(苦笑)
――例えば、どういう部分が大変だと感じますか。
高木:プロレス団体って、クリエイティブビジネスだと思っているんです。アイディア勝負なところがある。物事を作っていく事と、経営って比例しないんです。経営も考えながら、プロデュースもやっていくって相反することなんですよ。
――現在の高木さんの中でのレスラーと、経営者の割合はそれぞれどれくらいでしょうか。
高木:今は、プレイヤーとしてのモチベーションは、ほぼ少ないです。経営者としてのモチベーションしかない。ようはノア(注:2020年にノア・グローバルエンタテインメントの代表取締役社長に就任)という団体もやっていかなきゃならないし、DDTもやっていかなきゃならないし。
10年くらい前までは、プレイヤーとしてのモチベーションが高かったんですけれど、だんだん歳とともに衰えが来て、いつまでも現役で選手として高みをもってトライしていくのは難しいなと思って。
大社長と呼ばれているのも、いわゆる経営者キャラ。そっちがいいなって。社長のことをぶっ飛ばせるプロレス団体ってないじゃないですか。そういうのが面白いかなって思った。
――全くの無名の団体でスタートされて、どのように集客を増やしていったのですか。
高木:最初は、スポーツ紙や専門メディアが取り上げてくれなかったので、一般メディアで取り上げて貰おうと思った。一般メディアが面白いと思えるような引きを作っていったんです。実際にやったのは、2000年当時、ギャルブームがあったじゃないですか。渋谷にギャルがいっぱいいたんですよ。元々、僕はイベント畑出身なので、ギャルにパイプが合ったんです。
渋谷のクラブでプロレスをやっていたんです。そこにギャルたちを「プロレスを見に来ない?」って勧誘したんです。「これはイケるな」と思って、売り込んでいったら、『トゥナイト2』(当時、深夜に放送されていた情報番組)に取材されたんです。そこから、ブワーって広がったんですよ。
――レディースシートや女性限定興行という面白い取り組みもしていますよね。
高木:うちが初めてです。当時、クラブやディスコにレディースデイがあったんです。それが頭にあったので、当時はレディースシートを1000円にしていたんです。「1000円で観に行こうよ」っていうと、「行きたい!」ってなるんです。レディースシートはそういう発想からですね。
――そのようなユニークな経営方針はどこかで学ばれたのですか?
高木:全然。参考にしたのとか当時はまったくなかったです。自分の中でヒントを得たこととか、これ面白いなって思ったこと率先して入れました。プロレス団体って特殊なんです。いわゆる職人の世界。練習生として入って、徒弟制みたいなものですよね。経営側と、企画側とプレイヤー側と、分離されていない世界だと思っているんですよ。
プレイヤー側が、経営側も企画側もやっているという印象が強い。それこそ、レスラー社長って、その最たる例じゃないですか。本当はそこって、分離しなきゃならないところなんです。
じゃあ、レスラーが社長をやると何が都合がいいかっていうと、職人気質のある世界なので、親分の言ったことは、子分はよく聞く世界なんですよ。レスラーはレスラーのいう事しか聞かない(笑)だから、もう僕がやるしかないなって。
――入門テストなしで練習生を募集されたこともあったそうですが。
高木:入門テストなしの練習生募集と言うのは、実は一度しかやっていないんです。でもテストなしにしたら、20人も応募がきたんですよ。20人入れて、ふるいにかけたら、すぐ半分消えたんです。さらにふるいに掛けたら、今残っているのは勝俣(DDT所属・勝俣瞬馬)だけです。それでやっぱり、これはこれでよくないなと(笑)。やっぱり選ばれし者じゃないと駄目なんだって。
――DDTには、『ゆに』という中学生レスラー(取材時は小学6年生)もいますが、どういった経緯で入団されたのでしょうか。
高木:彼は、お母さんから直談判されたんですよ。ある試合後、売店にいたらお母さんから「社長、うちの子、テスト受けされてほしいんですよ」って言われて。「いいですよ、どこにいるんですか?」って聞いたら、本当に小さい小学生の男の子がいて。
「テストは受けさせますけど、結果はわからないです」って言って受けさせたら、センスがあったんです。それで取りました。
――以前、10代から練習生の応募があったとツイートされていましたが、応募する人の年齢層は若返っている傾向ですか?
高木:二極ですね。単純にAbemaTVを観てるか、観ていないかの違いです。今回、15歳と17歳からの応募が来たんですが、二人ともきっかけはAbemaだって言っていました。Abema は、10代の若い人たちに直結しているメディア。そこに「伝わった」っていうのは、大きいなって思います。
――逆にAbemaTVで興行が放送されることで難しいなと思うことはありますか?
高木:Amebaが無料なので、今回は興行に行かなくてもいいかなって人も、いるにはいるので(苦笑)。バランスの話ですね。本当は、集客につながるのがベストなんでしょうけれど。面白いと思えるコンテンツであれば、無料で放送されていようが会場に観に来たいと思われなければならないので。
昨年、『年商500万円の弱小プロレス団体が上場企業のグループ入りするまで』(徳間書店)を出版し、その新進気鋭な経営法に注目が集まっている。
ギャルから火がついた異色のプロレス団体
入門テストなし、センスがあれば練習生に採用
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出版社やWeb媒体の編集者を経て、フリーライターに。趣味はプロレス観戦。ライブハウスに通い続けて四半世紀以上。家族で音楽フェスに行くのが幸せ。X(旧Twitter):@rizeneration
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