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“一強”は安倍首相ではなく財務省。政治家に忖度などするはずがない/倉山満

“一強”たる安倍首相の手綱は財務省が握っている。忖度などするはずがない

言論ストロングスタイル

衆院予算委員会前に談笑する今回昇格の決まった太田充主計局長(左)と、麻生太郎財務相。政治家はしょせん「お客様」、歴然とした力関係の差がそこには存在する 写真/時事通信社

 夏は官庁人事の季節である。日本の権力を握る官僚たちも、自身の命運に気もそぞろだ。  インターネットの一部では、太田充主計局長の財務事務次官昇格を「森友問題で安倍内閣を庇った論功行賞」などと見当違いの批判が流れている。何を勘違いしているのか。最強官庁の財務省が、安倍内閣に忖度などするはずがない。もし忖度したように見えるとしたら、政権に対して貸しを作っているだけだ。それほど力関係の差は激しい。  では、財務省の強さの秘密とは何か。大きく五つあげる。  第一は、予算だ。予算とは国家の意思である。政治家やぶら下がっている業界、他の官庁に対するアメである。だが予算は、一瞬にしてムチとなる。仮に予算を削られて死活問題となる政治家・官僚・業界団体はひれ伏する。予算を司る財務省主計局は他の全省庁を査定する立場にあり絶対の存在なのだ。  第二は、徴税だ。全国の税務署を差配する国税庁は財務省の外局だ。そして増税は絶大な権力である。増税を取り仕切るのは、主税局だ。  第三は、国有財産の管理と財政投融資の運用、そして巨大民間企業への影響力だ。財務省はたとえばNTTの筆頭株主である。こうした仕事を担当する理財局が、主計どころか主税局からも大きく離された第三の序列しか与えられない所に、財務省の巨大さが分かろうか。  第四が、金融への影響力だ。国際局はアジア開発銀行のような国際機関をも天下り先としている。何より、世界最強の銀行である日本銀行は明治時代に大蔵省の子会社として設立され、今も財務省の影響力が強い。  第五が、インテリジェンス能力だ。「東大法学部にあらずんばFラン大学」「在学中に司法試験に受かるなど珍しくない」「公務員試験上位者の集まり」である財務省は、当然ながら情報の収集分析、そして対処能力が高い。政治家を洗脳するなど、若手の仕事だ。民主党政権では、歴代財務大臣の「菅直人は3か月、野田佳彦は3日、安住淳は30分」で増税派に転向させたと噂された。  財務省のインテリジェンスの中枢は大臣官房だ。だが、名前こそ「大臣」と付くが、政治家はしょせん「お客様」にすぎない。官僚は身内の頂点である事務次官に忠誠を尽くす旨を叩きこまれて生涯を過ごす。財務省ナンバー3の官房長のもとには、日本を支配するためのあらゆる情報が集まってくる。  安倍内閣は「一強」で、最強官庁の財務省も首相に忖度するしかないなどと主張する論者が後を絶たないが、いったいどこを見ているのだろうか。
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実力政治家とは、主計局に頭を下げるのが上手い政治家
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1973年、香川県生まれ。救国シンクタンク理事長兼所長。中央大学文学部史学科を卒業後、同大学院博士前期課程修了。在学中から’15年まで、国士舘大学日本政教研究所非常勤職員を務める。現在は、「倉山塾」塾長、ネット放送局「チャンネルくらら」などを主宰。著書に『13歳からの「くにまもり」』など多数。ベストセラー「嘘だらけシリーズ」の最新作『嘘だらけの日本古代史』(扶桑社新書)が発売中

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