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色黒の角刈り男が熱弁を振るう、持続化給付金「不正受給セミナー」に潜入

セミナーに紛れ込むサクラの受講生

 続いて女性スタッフは「緊張をほぐすため」として、隣り合う受講者同士でペアになり、互いに自己紹介をするよう促した。  筆者とペアになったのは、50歳前後と思われる女性だった。両者向かい合うと、彼女が先に口を開いた。「埼玉から来た田中(仮名)です。私の夫が勤務する会社もコロナの影響でどうなるかわからず、私がパートに行っていたクリーニング店も閉店してしまって。このままじゃまずいと思って、お総菜の移動販売を始めることにしたんです。  ただ、手元に資金がなくて困っていたところ、知り合いの飲食店経営者にこのセミナーを進められたんです。その方も、セミナー受講後に550万円の補助金を獲得したって。私はとりあえず、創業助成事業とIT導入補助金で400万円獲得しようと思っています」  それは立て板に水のごとき弁舌で、まるで話す内容をあらかじめ用意していたかのようだった。周囲では、 「えーと、シフトが入らなくて……。あっ、私、居酒屋でバイトしてるんですけど」 「助成金が入れば資金にしたいです。ユーチューバーになりたくて、俺……」  などと、しどろもどろなやり取りが繰り広げられていたのだ。  ちなみに筆者はというと、受付の際にカルテに記入した通り、「副業を始めようと思いまして……」と話すのが精一杯だった。  このように受講者同士で会話させる手法も、一体感と同調圧力を生み出すことを目的に、セミナー商法でよく使われる手口であると聞く。結局、講師の男が登場したのは、午後4時半を回ろうかという頃であった。  彼は自分の経歴について、大げさな身振り手振りでこう話した。 「大学卒業後、大手広告代理店に入社しまして。2年目から3年連続で営業成績トップを達成させていただきました。ただ、『このままここにいては成長できない』と感じて6年目で独立しまして、営業に特化した人材サービス企業を設立しました。  今は、おかげさまで会社を売却してリタイヤ生活を送っておりますが、売却時の契約により、社名は明かせないんですよ。ただ、経営者だった当時にさまざまな補助金や助成金に助けられたことから、人々にもその魅力を伝えたいと思い、今の活動を始めて4年になります。これまでにセミナーに参加していただいた方々には、総額2500億円の補助金・助成金を受け取っていただいております」  そして彼はこう付け加えた。 「SNSで『いいね!』ってあるでしょう? あれと同じように私の話に心動くようなことがあったら、拍手や声でどんどん反応してください」  そんな芝居がかったことを急に求められても、簡単にできるものではない。しかしそれからというもの、20人ほどの受講生のうち4人の男女が、男の話がひと段落するたび高速連打で拍手を送ったり、「えぇ~」「すごい!」などと合いの手を挟むようになったのだ。  彼らは間違いなくサクラだ――。そう直感した。  自己紹介の相手だった隣の田中さんも、その4人のうちの1人なのだ。さらに講師の男は、こうも話した。 「ネット上に溢れる情報のなかで、有益なものはたった1%しかないといわれています。そして残り99%のなかには、その1%を潰すための嘘も数多く紛れている。皆さん、ネットを信じてはいけません」  ネットで集客しておいて、そんなことをのたまうのである。ここまでくると、あまりにも見え透いた彼らの手口に、筆者は吹き出しそうだった。それと同時に、ここから我ら受講生からどのようにカネを巻き上げるのか、心の中で職業柄の興味がむくむくと湧いてくるのを感じていた。

「我々に任せれば何もしなくていい」と主張

 セミナー終了後に開かれる別室での「個人面談」講師の男が一通り話し終わると、今度はビデオ上映が始まった。30分ほどの動画にはまず、行政書士や税理士、社会保険労務士などが出演し、「我々にすべてお任せいただければ、何もしなくていい」などと主張。  さらには、同セミナーを受講して2500万円の補助金を獲得したという50代経営者や、会社員の身分のまま事業者向けの補助金400万円を獲得したという40代会社員などが、自らの成功談を棒読みで語るのだった。  そして動画の最後には、逆に士業の手を借りず、自ら補助金申請を試みたばかりに詐欺罪で逮捕されたという人物のエピソードが紹介されていた。  ビデオ上映が終わると、講師の男は両手をパンッと叩いて念押しした。 「いいですか、正しいやり方で申請すれば、誰でも国からお金がもらえるんです! そして、そのお金を使って経済を回すことが、皆さんに与えられた使命なのです!」  そう大見得を切る講師に向け、例の4人のサクラから相変わらずの高速拍手が湧く。  しかしここである異変に気づいた。彼ら以外にも、5~6人がパラパラと拍手を送っているではないか……。彼らもまたサクラなのか、はたまたすっかりマインドコントロールされてしまったのかは判別できなかったが、このときばかりは筆者もいくらか背筋に冷たいものを感じたのだった。
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