更新日:2020年09月07日 16:00
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色黒の角刈り男が熱弁を振るう、持続化給付金「不正受給セミナー」に潜入

「士業使い放題」100万円が、今なら50万円に!

 そして、聴講者一人ずつが別室に呼ばれての「個人面談」の時間が始まった。セミナー商法業界でいうところの「クロージング」というやつで、主催者側にしてみれば最後の追い込み作業である。 筆者が呼ばれたのは4番目だった。畳2畳分ほどのスペースに2脚ずつ向かい合わせに置かれた椅子の右奥に座り、その前面に女性スタッフ2人は扉に背を向けるように並んで座った。そして彼女らはこう迫った。 「補助金や助成金獲得は、行政書士や社会保険労務士、税理士など、士業の先生方の協力が不可欠です。しかし、先生方とそれぞれ別々で契約していると、莫大な報酬を支払わなければならなくなる。しかし、弊社と契約いただければ1年間『士業使い放題』でたったの100万円です。しかも、今日この場でお支払いいただけるなら特別価格の50万円になっております!」  筆者はもちろん契約する気など毛頭なかった。しかし、何か情報を聞き出せまいかと、「士業の方々とは、実際にお会いして相談が可能なのですか?」「ほかに追加料金はかからないのですか?」などと質問し、気のある素振りを続けていた。  しかし、それがよくなかったのかもしれない。「脈あり」と判断されたのだろうか、私のクロージングには講師の男が投入されたのだ。2畳ほどの小部屋で大人3人に囲まれる威圧感たるや、息苦しさを感じるほどだった。完全な「3密」でもある。「こういうのは縁です。思い切って決めちゃいましょう!」  後から入ってきた講師の男が畳み掛ける。それでも筆者が首を縦に振らないでいると、「では、頭金20万円だけでもお支払いください。チャンスは今日しかないですよ」と食い下がってきた。  その後も、5分ほど煮え切らない態度を続けた後、結局、「今日はやっぱりやめときます」と伝えると、男の口調は明らかに変わった。 「アンケートの<『補助金・助成金』を積極的に活用していく意思がある>という項目に〇をされてますよね? その意思がない人は最初からお断りしてるんすよ。嘘をついたということですかぁ? 今日は定員オーバーでお断りした受講希望者もいたんすよぉ。あなたはその方々のチャンスを奪ったってことですよぉ!?」  すでに「正体見たり!」の気分だった筆者には、これ以上そこにとどまる理由もなく、彼らの制止を振り切ってクロージング部屋を脱出し、会場を後にした。  その際、セミナー前には受付台だった場所にクレジットカードの決済端末が置かれていた。クロージング部屋で説き伏せられた受講者は、ここで支払いを迫られるというわけか……。
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セミナー商法はクーリングオフの対象外
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1980年、愛媛県生まれ。上智大学経済学部卒。ニューヨーク市立大学中退後、中国に渡り、医療や知的財産権関連の社会問題を中心に現地取材を行う。2008年に帰国後は、週刊誌や月刊誌などに寄稿しながら、「国家の政策や国際的事象が末端の生活者やアングラ社会に与える影響」をテーマに地道な取材活動を行っている。2016年に他に先駆けて『週刊SPA!』誌上で問題提起した「外国人による公的医療保険の悪用問題」は国会でも議論の対象となり、健康保険法等の改正につながった。著書に『中国「猛毒食品」に殺される』(扶桑社刊)など。最新刊『ルポ 新型コロナ詐欺 ~経済対策200兆円に巣食う正体~』(扶桑社刊)発売

ルポ 新型コロナ詐欺 ~経済対策200兆円に巣食う正体~

詐欺師や反社、悪事に手を染めた一般人まで群がっていた

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