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毎年恒例、七味五悦三会で、今年を振り返る/鴻上尚史

思わず考え込んでしまう、楽しかったこと五つ

 毎年、僕は自分なりに「七味五悦三会」を振り返っています。  が、2020年ですよ。  悲しかったり、つらかったことはたくさんあったんですが、楽しかったこと五つと言われると、うむむと考え込んでしまいます。  ただ、ロンドンの演劇学校の20年ぶりの同窓会ができました。  コロナによって一般化したZoomによって、世界中にいるクラスメイトが集合しました。一学年23人中22人、イギリスはもちろん、アメリカ、ポルトガル、香港、スペイン、フランス、そして日本。世界中に散ったクラスメイトが、Zoomの画面に集合しました。  懐かしく、楽しかったのですが、同時に切なくもありました。  イギリスの1、2を争う演劇学校で、卒業生にユアン・マクレガーやオーランド・ブルームを生んだ環境でしたが、22人中、俳優を続けられているのはほんの2、3人でした。  多くは、まったく別の職業についていましたが、本人が自分から言い出さない限り、誰も今の状況を聞きませんでした。その優しさにじんとしました。みんな、俳優を目指し、闘い、挫折し、苦しみを共有しているからこそ、踏み込まない一線がありました。  舞台『スクール・オブ・ロック』は中止になりましたが、練習を続けた子供達があまりにも可哀相なので、一曲だけ、YouTubeで公開しました。  実に楽しくてワクワクしましたが、楽しくなればなるほど、「観客の前でやらせてあげたかった」と思って、悲しさも同時に感じました。  他に楽しかったことは、コロナで芝居が飛んで公園でたっぷり本を読めたことと、『愛の不時着』にはまったことですかね。  あとひとつは、コンビニの店員さんが美人だったとか、急いでいる時にタクシーがすぐにつかまったとか、一年の最後に振り返るには少し弱い感じです。 「三会」は、例年は芝居で出会った新しい人でしたが、今年は芝居が二本中止になり、悲しい思い出と出会いの記憶が一緒になり、単純に「三会」と言えません。 「七味」も俺流ラーメンの「冷しラーメン」以外はあまり覚えていません。あなたの「七味五悦三会」はどうですか?  来年こそは、いい年にしたいですね。よいお年を祈ります。
ドン・キホーテ 笑う! (ドン・キホーテのピアス19)

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