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コロナ危機が暴いた日本の没落<日本総合研究所会長・寺島実郎氏>

ワクチン以外でも欧米に大きく劣後する日本

―― それ以外のコロナ対策も成功していません。 寺島 昨年5月から1年間でコロナ患者は5倍に増えた一方、コロナ病床は2倍にしか増えていません。当初、日本は一人当たりの病床数が世界一と誇っていましたが、一般病床とコロナ病床は違います。今年1月下旬の時点でコロナ病床は欧米の10分の1以下にとどまっていることが判明しました。  その結果、政府は昨年から現在に至るまで感染拡大・病床逼迫・緊急事態宣言というルーティーンに陥っています。コロナ病床が不足するから緊急事態宣言を出すという説明は、「コロナのトンネル」に入った昨年時点なら通用したかもしれませんが、500日経った今では本来通用しません。  なぜこの間に、コロナに対応する病床を増やしたり、専門病院を作ることができなかったのか。1年以上、何をしていたのかということです。  また、政府は昨年度に第1次補正から第3次補正まで、総額76・6兆円の補正予算を組み、「1人10万円」の特別定額給付金をはじめとする総額55・9兆円の経済対策を行いました。それに対して、医療対策は9.2兆円であり、予算全体の1割程度にすぎません。  しかし、その経済対策が果たして効果的だったのか、これはしっかり検証しなくてはなりません。たとえば、特別定額給付金の効果により、昨年の勤労者世帯のひと月当たりの可処分所得は47.7万円(2019年)から49.9万円に増加しました(ただし、給付金を除いて試算すると47.1万円となり、19年から0.6万円減少)。それに対して、昨年の全世帯家計消費支出は29.3万円(2019年)から27.8万円に減少しています。つまり、給付金によって使えるお金は増えたが、実際に使われたお金は減ったということです。消費刺激という政策的な効果については、ほとんどなかったと言えます。  生活保障政策ならば、全国民に一律10万円を給付するより、年収二百万円以下の低所得者層に重点的に現金を給付した方が効果はあったでしょう。その分浮いた予算を特効薬・ワクチン開発を中心とする医療対策に回していれば、現在の状況も変わっていたはずです。政府がこうした政策科学を重視しないという事実の中に、日本の政治的貧困が滲み出ているように思えます。

日本の産業を弱体化させたアベノミクス

―― 日本は先進国から転落したと言っても過言ではありません。 寺島 ここで指摘しておきたいのは、日本はこの10年の間にコロナ禍と東日本大震災という二つの災禍に見舞われたという視点です。この二つの危機を冷静に総括する必要がある。  東日本大震災から10年が経ちますが、この間に政府は復興庁を創設し、2019年度までに37兆円の復興予算を投入しました。その結果、被災地はどうなったか。  まず人口減です。東北6県の人口減は震災前から進んでいましたが、震災がその流れを加速させ、2019年時点で、岩手、宮城、福島の被災3県では人口が32.9万人(6.1%)も減っています(2010年比)。厚労省の予測によれば、2015年から2045年の30年で、東北6県の人口は30%以上減るとされています。  次に産業構造の歪みです。被災3県の県内総生産について2017年度時点で、1次産業は33.9%減少した一方、2次産業は29%、3次産業は6.2%増加しています(2010年度比)。原発事故の影響で1次産業が打ちのめされた一方、復興予算の投入によって2次産業の建設土木関連が急拡大を遂げ、その恩恵にあずかった3次産業も潤ったという構図です。しかし、現実として復興予算が投下されなくなるにつれ、2次産業、3次産業もシュリンクし始めています。  つまり、37兆円の復興予算が土木建設業を中心に投入され、ハード優先の復興が進められた結果、被災地の産業構造が歪められ、人間の顔の見えない地域に変質したということです。  そのため、県別・市町村別の復旧復興計画はがれき処理、高台移転、防潮堤建設はそれぞれ何%進んだと、数字上は復旧復興が進んだことになっていますが、人口は減っている。ハコモノだけは作ったが、人間の生活は戻ってきていないのです。  それは、被災3県を含む東北6県の全体を見渡した上で、この地域にどういう産業を興し、いかなる生活の基盤を築き上げるのかという総合的な構想、グランドデザインが描かれていないからです。その結果、本当の意味での創造的復興は実現できていないというのが、東日本大震災から10年後の現実です。 ―― 総合的構想力の欠如により、日本は二つの危機を克服できていない。 寺島 その間に、アベノミクスなるものがあったわけです。私は以前から日本の危機的状況について警鐘を鳴らしてきたのですが、「株価が高いからいいではないか」という楽観視が先行して、危機感を共有する人は少なかった。株高円安というアベノミクスの上辺だけの効果で、「日本もそこそこ上手くいっている」という幻想にまどろむ経済人が多かったのです。  しかし、すでにアベノミクスが公的資金、すなわち日銀マネーとGPIFの年金資金をダイレクトに株式市場に突っ込み、異次元の金融緩和を進めるだけの人為的な株高円安誘導政策にすぎなかったことは一目瞭然です。その結果、我々は今まさにコロナ危機によって「経世済民」という意味での実体経済の虚弱化が顕在化し、それによって著しく弱体化した日本産業の凋落が白日の下に晒されるプロセスを目撃しているのです。
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もはや国際競争力を失った日本の産業
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