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コロナ危機が暴いた日本の没落<日本総合研究所会長・寺島実郎氏>

「ジャパノロジスト」が復権したバイデン政権

―― 経済的影響力の低下は、政治的・外交的影響力の低下に直結します。 寺島 外交構想力の欠如も深刻です。先日、日米首脳会談が行われましたが、ここで明らかになったのは、トランプ政権時代に排除されていた「ジャパノロジストの復権」です。リチャード・アーミテージやマイケル・グリーン、カート・キャンベルといった日米同盟をワシントンでのビジネスにしている、いわゆる「ジャパノロジスト」が、バイデン政権になって日米関係の中枢に舞い戻ったのです。知日派と親日派は違います。  首脳会談では菅総理とバイデン大統領はファーストネームで呼び合い、日米安保条約第5条を尖閣諸島に適用するとされたことで、日本では成功であるかのように報道されました。しかし、こうしたバイデン政権の対応は、明らかにジャパノロジストから「こうすれば日本人は喜ぶ」と入れ知恵されたようなものです。  たとえば、アメリカは米中国交正常化以来、尖閣諸島に対する日本の施政権は認めるが、領有権については態度を示さないという曖昧戦略を続けています。  だからアメリカから「日米安保第5条を尖閣諸島へ適用する」と言われたならば、「では、アメリカは尖閣諸島に対する日本の領有権を認めるのか」と即座に聞き返さなければならない。「第5条尖閣適用」の一言を有難がり、本領安堵された御家人のように安心して帰ってくるようでは話になりません。  ファーストネームも第5条尖閣適用も、いわば日米同盟の固定化を自らの利害とするジャパノロジストに仕掛けられたものにすぎません。ところが、日本人は相変わらず彼らの手のひらで踊らされ、喜ぶような自虐の構造にはまり込んでいるとも言えます。  日米首脳会談では台湾問題にも言及しましたが、仮に中国が台湾に侵攻した場合、米軍が動くとなれば、台湾に米軍基地は一つもなく、沖縄から出撃することになり、日本は否応なく米中戦争に巻き込まれる危険性をはらんでいます。  米中対立でどちらにつくのかという議論が先行していますが、これでは日本の21世紀は開かれません。日本の貿易相手国のシェアは、2000年にはアメリカ25%、中国10%でしたが、2020年にはアメリカ14・7%、中国23・9%と逆転し、2030年にはアメリカ12%、中国26%とダブルスコアになると予想されています。  日本は中国との関係によって経済を成り立たせるという実態の中で、日米同盟を強化して中国の脅威に対抗するという歪んだ戦略を進めることで、自らパラドックスの中に突っ込んでいるのです。こうした状態から脱却し、米中対立という枠組みを超えて、大国の力学に揉み潰されない主体性を取り戻さなければなりません。  

新たな医療・防災産業を創生する

―― 日本はどうしたら世界での存在感を取り戻すことができるのですか。 寺島 重要なのは、問題の所在を指摘するだけでなく、それを解決するプロジェクトを実行することです。将来の日本人が支えとして生きていけるような新たな経済産業の基盤を、作り上げなければならないと思います。何より毎年のように地震から豪雨まであらゆる自然災害に痛めつけられる日本列島において、今後はさらに感染症が波状的に襲来するならば、国民の安全を確保する産業基盤の構築は急務です。  その思いから、私が代表を務める(一財)日本総合研究所は、今年4月に「医療・防災産業創生協議会」を設立しました。これは今後、日本産業の一翼を担う医療・防災産業を創生するため、日本医師会・歯科医師会や関係省庁などのバックアップ体制を整え、24年までの3年間限定で、調査研究・具体的なプロジェクトの実施・データベースの構築に取り組むという構想です。  すでに超党派の議員連盟も立ち上がり、戦後日本が蓄積してきた産業技術力を集中させ、民間主導で産官学の連携を創出する流れにしたいと考えています。  こうして実際に問題の解決に取り組む中で初めて、何をどう変えればいいのかという制度設計が見えてくるのです。 ―― 政治の問題点を指摘するだけでなく、それを解決するためにそれぞれの持ち場で自ら知恵を絞って汗をかくべきだというメッセージですね。 寺島 我々日本人は誰かが助けてくれることを願うのではなく、自ら知を錬磨していかなければなりません。  私は昨年10月よりTOKYO MXテレビで「寺島実郎の世界を知る力」という番組を放送し、全体知への接近をテーマに据えています。この番組はYouTubeでも見逃し配信を視聴でき、これまでの放送回の再生回数の合計はすでに118万回を超えています。ここには、物事や時代の課題を体系的・構造的に理解したいという欲求が表れていると思います。  コロナ危機を機に、本当の情報を求める国民が増えています。この事実に希望を感じます。ぜひ番組を視聴してもらい、時代の流れに食いついていってほしいと思います。 (5月31日 聞き手・構成 杉原悠人) <記事初出/月刊日本2021年7月号より> てらしまじつろう●1947年、北海道生れ。1973年、早稲田大学大学院政治学研究科修士課程修了。同年三井物産入社。ワシントン事務所長、三井物産戦略研究所所長、三井物産常務執行役員を務めた。現在、日本総合研究所理事長、多摩大学学長。TOKYO MXテレビ「寺島実郎の世界を知る力」の見逃し配信の視聴は、こちらから可能
げっかんにっぽん●Twitter ID=@GekkanNippon。「日本の自立と再生を目指す、闘う言論誌」を標榜する保守系オピニオン誌。「左右」という偏狭な枠組みに囚われない硬派な論調とスタンスで知られる。
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月刊日本2021年7月号

【特集1】【特集1】言論の府・国会は死んだ
【特集2】「コロナ五輪」強行! 翼賛メディアの大罪
【特別インタビュー】1億5千万円問題 検察審査会が安倍晋三を追いつめる 弁護士・元東京地検特捜部検事 郷原信郎


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