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隣で核保有国が侵略戦争を行っている状況で「軍事抜きの外交」など論外/倉山満

隣国すべてが敵国や紛争地域のトルコ

 しかし、トルコにとって、この程度は朝飯前。我が国が見習うべき国だ。日本の周辺諸国は、敵国と潜在的紛争地域だ。前者は、中国・ロシア・北朝鮮。後者は、韓国と台湾。海の向こうからアメリカが守りに来てくれているので、なんとかなっている。しかし、トルコの環境は、はるかに過酷だ。  陸続きで隣り合っている国が、ジョージア・アゼルバイジャン・アルメニア・イラン・イラク・シリア・ギリシャ・ブルガリア。そのすべてが敵国か紛争地域である。  ジョージアとアゼルバイジャンは、ロシアへの盾である。これらの国とは唇と歯の関係にある。この両国の安全保障はトルコにとって死活問題だ。だが、ジョージアはロシアに国土の一部を占領され、慢性的紛争状態にある。トルコにとっても緊張状態が日常ということだ。  トルコとアゼルバイジャンを仇敵視するのが、アルメニアだ。この国はオスマン帝国時代の歴史問題を持ち出し、常にアメリカを巻きこんでトルコを非難させる。だから今次ウクライナ事変の前にトルコはアゼルバイジャンを使嗾(しそう)してアルメニアを叩かせた。トルコはアルメニア対策で、アゼルバイジャンの軍部を徹底的に取り込んでいる。  アゼルバイジャンの向こうには、カスピ海を挟んで、イランがいる。イランとロシアは資源豊富なカスピ海の利権をめぐり、くっついたり離れたりを繰り返している。アゼルバイジャンの後ろ盾のトルコも、無関心ではいられない。

国益を主張する好機をトルコは見逃さない

 イランと言えば、中東問題。トルコは、イラクやシリアのような紛争地域とも隣接。国境をまたぐ山岳地域にクルド人が住み着き、トルコへの抵抗活動を繰り返している。トルコは中東問題に直接介入しないが、イスラエルやヨルダンのような比較的話が通じる国とは友好関係を樹立。情報は確保、いつでも介入できる準備だけはしている。いわば「ノータッチのタッチ」だ。  ただし、今回の瑞芬両国のNATO加盟のような好機があれば、遠慮なく国益を主張する。  NATOで同盟国のはずのギリシャとは、キプロス紛争を抱える。NATOで唯一のイスラム教国のトルコに対し、正教国のギリシャはことあるごとに親露反土の姿勢を示し、そのたびに米欧は「喧嘩トルコ成敗」の如き態度を示してきた。  比較すれば揉め事の要因が無いのが、ブルガリアだ。もっとも過去にはトルコとこの国は何度もバルカン紛争を引き起こしている。現在のブルガリアも、汚職と失業が蔓延る経済後進国なので、不安定要因には違いないが。
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日本の置かれた国際環境など、トルコに比べれば余裕綽々だ
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1973年、香川県生まれ。救国シンクタンク理事長兼所長。中央大学文学部史学科を卒業後、同大学院博士前期課程修了。在学中から’15年まで、国士舘大学日本政教研究所非常勤職員を務める。現在は、「倉山塾」塾長、ネット放送局「チャンネルくらら」などを主宰。著書に『13歳からの「くにまもり」』など多数。ベストセラー「嘘だらけシリーズ」の最新作『嘘だらけの日本古代史』(扶桑社新書)が発売中

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