ライフ

母が「末期がん」と宣告されて目の前が真っ暗に…それでも「心の健やかさ」を保つには

恩返しすることに意味がある

 加藤さんは、「母のこの姿を一生涯忘れないだろう」と思いながら眺めていましたが、突然ハッと我に返りました。彼女はそのとき「今度は自分が母に恩返しする番だ」という思いにいたったそうです。恩返しすることが、母の治療のためにできるだけのことをする意味(有意味感)だと感じたのです。  そこから加藤さんは、「自分に何か少しでもできることはないか」と思い、本を読んだり知識をつけたりして(把握可能感)、抗がん剤に耐えられるようにレシピを考えた料理を作るなどしていった結果、少しずつ「なんとなかる」と思えるようになったそうです(処理可能感)。  有意味感をもつことから、ほかの2つの感覚が回復して高くなっていったいい例といえるでしょう。

有意味感はどんな状況でも持てる

ストレス 経験したことがない大きな壁にあたって把握可能感がもてないときも、どう考えても「なんとかなる」なんて思えなくて処理可能感がもてないときにも、有意味感はもてます。 「困難な状況であっても、このことには意味がある」「このことを意味あるものにするために私は何をすべきか」という有意味感は、もつことができるのです。例えば、「はじめに」で、首尾一貫感覚はユダヤ人強制収容所を生き延び、その後も心身を健康に保つことができた女性の研究から生まれたものだと言いました。  このことを思い出してください。強制収容所のような環境に置かれると、「先のことがどうなるか、まったくわからない」「いつ殺されるかわからない」という思いになることでしょう。把握可能感が低くなるのは必然という状況です。
次のページ
「この経験には意味がある」と思える
1
2
3
4
ストレスマネジメント専門家。企業人事部や病院勤務(精神科・心療内科)などを経て、現在、株式会社メンタルシンクタンク(筑波大学発ベンチャー)副社長。カウンセラーとして約1万人の相談に対応し、中央官庁のメンタルヘルス対策や県庁の研修にも携わる。著書に『「なんとかなる」と思えるレッスン 首尾一貫感覚で心に余裕をつくる』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)などがある

記事一覧へ
おすすめ記事