普天間基地移設に使われる税金数千億円のムダ
ジャーナリスト。『仮面 虚飾の女帝・小池百合子』(扶桑社)、小泉純一郎元首相の「原発ゼロ」に関する発言をまとめた『黙って寝てはいられない』(小泉純一郎/談、吉原毅/編)編集協力、『検証・小池都政』(緑風出版)など著書多数
1月に行われた沖縄県名護市長選では、普天間飛行場移設(辺野古埋立による新基地建設)に反対する現職の稲嶺進市長が、賛成派の末松文信候補(前県議)を破って再選された。選挙戦では、小泉進次郎政務官をはじめ石破茂幹事長や高市早苗政調会長ら自民党国会議員が次々と沖縄入りし、「沖縄振興予算の増額」や「500億円の名護振興基金設立」など“札ビラ”攻勢で末松氏への支持を訴えた。しかし名護市民は稲嶺市長を当選させ、基地移設拒否の民意を示したのだった。
ところが安倍政権は「普天間基地の固定化を招く」と強調しながら移設(埋め立て)を強行する方針だ。これに対して稲嶺市長は「地方自治の侵害、名護市民の人権にかかわる」と反発、移設阻止活動の先頭に立つと宣言している。
一方、元防衛省幹部からも異論が出ている。小泉純一郎元首相をはじめ歴代自民党政権で安全保障政策を担当した柳澤協二・元内閣官房副長官補は、「政府の思考停止状態が移設問題の解決を遅らせている」と名護市での講演会で語った。
「日本政府は『抑止力』のために辺野古に海兵隊用の新基地を造ろうとしていますが、米軍は『沖縄は中国のミサイル射程圏にあり、近すぎる』と考え、海兵隊をオーストラリアやグアムにシフトさせようとしています。『沖縄の米軍基地は、いざという時には使えない』『沖縄の米軍基地にはローテーション部隊しか残らないだろう』と見られているのはこのためです。『尖閣などの離島防衛が大変』とも言われますが、日米ガイドラインには『自衛隊が尖閣などの離島防衛を担う』と書かれており、『海兵隊がいないと離島防衛に支障が出る。抑止力維持のために辺野古に新基地が必要』という論理は成り立たない。またオスプレイの導入で航続距離が4倍となったので、沖縄に海兵隊がいる必然性はさらに薄れた。それなのに防衛省は全く見直そうとしません。『抑止力』が“バカの壁”になって(辺野古移設見直しを)深く考えないのです」(柳澤氏)
普天間移設には埋め立て利権も絡んでいる。名護市の建設会社で砂利採取場を有する「東開発」の仲泊弘次会長は、推進派候補として出馬表明していた島袋吉和前市長に出馬断念を働きかけた人物。「候補者を一本化して推進派市長を誕生させ、埋め立てを進めよう」という狙いが透けて見える。こうした沖縄の米軍の“基地既得権”を見直せば、約4000億円と見積もられている辺野古埋め立て事業費に加えて、「那覇空港滑走路増設事業」(総事業費2000億円)も必要がなくなる。これは安倍政権が仲井眞弘多知事に基地移設を承認させるため450億円を増額したもので、今回の「沖縄振興予算」の目玉だ。
「那覇空港の滑走路建設を今すぐに始めても、使えるのは早くて2020年。それよりも、4000m級の滑走路が2本もある『米軍嘉手納基地』を軍民共用化するのがいちばん手っ取り早い。または現在那覇空港を使用している自衛隊をここに移すという方法もある。嘉手納基地は2本とも軍用機が四六時中使用しているわけではなく、十分余裕があるからです。これを阻んでいる原因も、米軍の既得権を聖域にしている日本政府の弱腰です」(基地問題に詳しい地元紙記者)
こうして基地問題は何らの進展をみせることもないまま、着々と予算執行に向けて必要性が疑問視される公共事業が進行中。「沖縄振興」「基地対策」の名のもとに、税金が湯水のごとく投入されている。こうした“アメとムチ”の基地政策は、一部の業者や関係者に税金が流れる利権構造を温存するだけだ。普天間基地移設のために使われるこれら数千億円の税金について、本当に必要な支出なのかどうか、注視していく必要がありそうだ。 <取材・文・撮影/横田 一>
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