第405回

3月2日「死ね死ね団がやってたけど」

・お札を特別に刷ってばらまくのもいいと思う。かなり注意深くやる必要はあるだろうが、税金を再分配するというアイデアよりは100倍ましだ。

・前者は、国のブランドに対する自信をベースに行なうことだ。そして後者は、国の意味をないがしろにしてしまう行為だ。日本人は、果たしてどちらを支持するのか。

・「日本」が嫌なら、ドラえもんやマリオの紙幣はどうだ。

3月5日「新しいゲーム広告モデルとは」

・『バイオハザード5』発売。驚異的な作り込み。『龍が如く3』とかこのゲームとかやってるうちにドラクエまではあっと言う間だろうなぁ。

・ゾンビ映画の原点には、アメリカ人の、異文化への恐怖があると思う。戦争の時は強い相手よりも、「死」に対する感覚の違う人々と戦う時がいちばん怖いはずだ。圧倒的な武力で戦いつつアメリカは常にこの恐怖と対峙してきた。例えば神風特攻隊。ベトコン。イラクの自爆テロリスト。アフリカを舞台にして、死ぬのではなく異形化して襲いかかってくる人々を目の当たりにするこの作品では、その感覚が特に強調される。

・『バイオハザード5』は、ニコニコ動画人気も高い。それが確実にセールスにつながっているはずだ。今ゲームの世界では、1.クオリティーの高い体験版を配信し、2.先鋭的ゲームマニアに先行プレイさせた上で、3.ニコニコ動画などの盛り上がりで前人気を作っていく、という形のプロモーションがきわめて有効になっている。この広告形式のノウハウと効果について今、本気で調べている。テレビや雑誌の媒体力が低下していくとしたら、それに代わるものは何なのか、もしかしたらその答えがこのあたりから、見えてくるかもしれない。

3月10日「小説のARG化」

・メディアファクトリー社にて、三原プロデューサーと会う。トレーディングカードゲームとケータイゲームを組み合わせた『名探偵コナン・カード探偵団』に携わっている方で、ARG(代替現実ゲーム)についてよく研究されている。海外の新しいゲームや書籍の情報もいろいろ教えてもらった。

・ARGとはネット等を活用して情報を出し続け、現実世界をゲーム空間にしてしまう試みだ。そう、『カード探偵団』もその一つである。僕がなんでこういうものを勉強しているかというと、この技法は今ならどのジャンルにも有効だからである。欧米では小説もこのスタイルで、つまりオンラインコンテンツとの相乗効果によってリリースされるものが増え、成功例も多い。

・日本にも、小説がARGの要素をまとうことによって理論値の100倍も売れてしまったという例が既にある。ケータイ小説だ。初期のケータイ小説は、日記サイトの延長から生まれたこともあり、現実との境界が曖昧だった。ゆえに特別なリアリティーがあったわけだが、それが失われた瞬間、売れなくなった。あれは、ARGだったのである。だからこそケータイ小説家「ぱーぷる」こと瀬戸内寂聴さんの戦略は見事だったと言えるのだ。

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PROFILE

渡辺浩弐
渡辺浩弐
作家。小説のほかマンガ、アニメ、ゲームの原作を手がける。著作に『アンドロメディア』『プラトニックチェーン』『iKILL(ィキル)』等。ゲーム制作会社GTV代表取締役。早稲田大学講師。