渡辺浩弐の日々是コージ中
第100回
02年1月20日「不登校という選択肢」
・僕は中1の時サイテー教師に出会って以来学校という仕組みを信じなくなった。なんて書いたおかげで『全国不登校新聞』の取材を受けることに。
・『「ひらきこもり」のすすめ』は不登校の若者にも読んでもらいたいと思って書いた本だ。ただし、ひきこもりからなんとか脱しようともがいている方々の役には立たないかもしれないという不安があった。もがき苦しむのではなく、力を抜いてみようというのが僕の考えだから。力を抜いたらふわっと浮かべるかもしれない。あるいは、沈んでしまったとしても、構わない。水中で活動できるアクアラングのようなツールが、今はあるからだ。水面をじたばた泳ぐ技術を身につけることだけでなく、水の底をすいすい歩くという方法を選ぶこともできる。
・そういう意味では、こういうメディアの方々と志は同じだが方法論が違う。だからこそ、論議は面白かった。ちなみに取材にいらした記者さんも、不登校体験者だった。
02年1月21日「論議の前に」
・僕、妊娠して出産しました。
・と、発表したら、新聞やテレビはちゃんと報道してくれるのか。そして、そこから、男性が子供を産むこと(技術的には可能)についての倫理問題などについて論争してくれるのか。
・クローン技術というテーマの特異性を利用してものすごく巧みな宣伝活動が行われている。現状は「言ったもん勝ち」状態なのである。無条件に、大々的に報道してもらえる。批判であれ擁護であれ、それはネタ元の団体のものすごい利益になっている。別に嘘と決めつけるわけではないけど、報道はこれが事実かどうか検証が済んだ後にするべきなのではないか。
・「日本人クローンベビー」の発表の裏には、日本のマスコミがいちばん与し易いという事実があるかもしれない。
02年1月22日「新製品情報」
・新刊、出来上がりました! 今度は『プラトニックチェーン』の単行本バージョンです。コギャルがシブヤでケータイでハッキングして遊んじゃってるシリーズ小説。雑誌(ファミ通)に連載されてたりアニメ化(テレビ東京)されてたりするあれです。けど、単行本化は初。ぜひまとめて読んでみて下さい。1月30日発売。
・さて個人的にはケータイからのちくりメールで、信頼してた人にすごい陰口を言われてたという事実を知りボー然とした日。しかしこういう経験から「ひらきこもり力」が出てきて、筆が進むのである。僕もがんばる。みんなもがんばれ。
第99回
02年1月12日「深作さんさようなら」
・深作監督ご逝去の報。最後まで枯れず、邦画全盛期の熱を維持しておられた方だった。70を過ぎても現場に入ると連日20時間ほぼ休み無しで声を張り上げておられた。生涯現役とはこういうことだろう。
・晩年になって『バトル・ロワイアル』でファン層を一新したことより、それに飽き足りずなんとゲーム制作に初挑戦し、その成果(『クロックタワー3』)が事実上の遺作となったことの方が驚きだ。
・生前、最後にお会いしたのは東京ゲームショウだった。立ち話の光景がカプコン社のカメラに偶然写り、それが『クロックタワー3』のメイキングビデオに収録された。僕もちょっぴりパワーを分けてもらえた気がする。
・長男の健太さんが、跡目をきっちりと引き継がれると思う。この人は古き良き映画界のことも、そして最新のデジタルメディア界のこともとても詳しい、貴重な存在である。
02年1月14日「不景気も悪くない」
・デジタルコンテンツ協会「デジタルコンテンツグランプリ」の審査会。家庭用ゲームソフトなどメジャー企業の作品と、ショートムービーなど個人の作品を、同じ目線から見られる機会である。
・審査の過程と結果についてはまだ詳しく書けないが、少しだけ感想を。こういうコンテストに出てくるものは、収益のことを考えずに新奇性に走った試作品のようなものがこれまで多かった。しかもネットコンテンツになると中途半端なものでもすぐに実稼働することができるのだ。
・しかし、今年は明らかに様相が一変していた。メジャーな作品(例えばCGを活用したテレビ番組企画など)も、新しい技術を使いながらもできるだけ低予算で、できるだけ大きな効果を上げる努力をしていることが伝わってきた。
・そういう動きによって、地に足のついたものができあがっていく。テクノロジーからエンターテインメントに飛び移ることができるのだ。
第98回
02年12月17日「人骨の正体」
・前回の話の続き。結論を言うと、やはりここは病院、それも、歯医者さんの跡だった。
・歯を抜いた時、下の歯だったら窓から屋根に向けて投げ、上の歯なら床下に放り込むおまじないがある(知らない人はおじいさんかおばあさんに聞いてみて下さい)。ここで歯を抜いてもらった患者さんたちがそうやって投げた歯が屋根裏と床下にたまっていた。それが、白いかけらの正体だったようだ。
・病院を営業していた場所ということは、清潔で、水回りもいいということになる。これは、オタクーロン城化しつつある中野ブロードウェイの中にあってはとても重要なことである。しかし僕らは病院をやるつもりはないので、改装しようということになった。
・それにしても、あまりにも謎な作りだ。天井や床だけでなく壁も2重に作られていて、不自然な凹凸がある。昔の図面と比べると、ある一角には2メートルほどの、そこに人が暮らせるくらいの隙間まであるということがわかった
02年12月18日「ファミリースケルトン」
・というわけで「まんだらけ」各店舗を手がけたという、中野ブロードウェイに詳しい内装屋さんに来てもらった。無意味な壁を全部ひっぺがしたらすごく広く使えるはずですよね。軽い気持ちでそう尋ねたら、非常に驚かれてしまった。
・「ブロードウェイは約40年前に建てられ、以来、多くの人々が思い思いの暮らしを続け、それぞれの秘密を隠したまま、死んでいきました」「壁の裏についても、てんで勝手に配線、配管を行ったり、あるいはそのスペースをいろいろなものを秘かに収納することに使ったという話も聞きます」「もちろん、封印を開けるのは、自由です。ただ、何が出てきても、何が起こっても、当方は関知できません」 ……とのことである。やれやれ虫歯なんて序の口だったのだ。
02年12月31日「バーチャルとリアルの接点」
・中野ブロードウェイ。改装は快調。結局、仲間のマンガ家AさんFさんと一緒に、ここで年越しである。
・ここは信頼できるデジタルクリエーター仲間と一緒に、極秘アジトとして活用していくつもりだ。中野ブロードウェイはある意味で素晴らしくクリエイティブな場所である。それだけでなく、形のない商品を作っている人間にとっては、こういうバーチャルとリアルの接点のような場所が必要だと考えたのである。
・クリエーターの活動拠点は今ならもちろんネット上のホームページに置くのがベストだが、そのアンテナショップとして、現実空間にこういう「場」を持つことが重要だと考える。つまり全国のお客さんの側から見れば、実際に気楽にアクセスできるホームページの方が「リアル」で、実在しても滅多に行くことのできない中野ブロードウェイの方が「バーチャル」ということになる。