渡辺浩弐の日々是コージ中
第60回
02年3月9日「世界がもし150億ギガバイトのデータだったら」
・カリフォルニア大バークレイ校の研究チームが作成した『ハウマッチインフォメーション』という文書の日本版が届いた。東大大学院の武邑光裕先生が邦訳をプロデュースされたものだ。地球上のありとあらゆる情報の量を、紙や磁気ディスクといった媒体別に計測する試み。
・「紙、フィルム、光学式ディスク、磁気ディスクの世界において生産された総量をすべて記録するためには、おおよそ150億ギガバイトの容量が必要となる」ということらしい。全人類が一人あたり250メガバイトを受け持てば、セーブできちゃう量だ。
・個々のメディアの分析と計量が実に面白い。例えば、ハードディスク1ギガあたりのコストは、1988年には$11540(なんと150万円)。それが2002年には$3(390円)。そして2002年、世界で販売されるハードディスクの総容量は13027ペタバイト。ペタってのはギガの100万倍だから、ええと、130億ギガちょいってことか。
02年3月10日「”いじめ受け”顔」
・小学校の頃のことを思い出してみるとちょうどこういう感じだった。嗜虐欲を無性に刺激する顔の子がいる。そいつの行動が妙に小ずるかったり、先生に取り入るのが上手かったりすると、突如クラスじゅうのいじめエネルギーが1点に集約されることになる。雪崩が始まったら、それまで味方や親友だった奴も、さっと離れて攻撃側に回る。ちょっとでもかばったりしたら、一緒くたに袋叩きだもんね。
・最近、日本人みんなが誰かをいじめたくていじめたくて仕方がなくなってて、いけにえを求めてたような気もする。問題は別のところにあるような。
02年3月11日「コ(中略)会」
・青山テピアにて『コンテンツ制作基盤技術等(中略)成果発表会』。早い話がデジタル系のアイデアや技術の展示会。お国の予算を個人クリエーターに、という例のプロジェクト「プレミア」の成果ショウイングもここで行われた。
・僕がノミネート担当だったデジタルマンガ作品の他にも面白い作品がずらり並んで壮観。個人の持っているケータイからケータイへとヒッチハイクしながら全国を旅するペットで遊ぶゲーム、とか、特殊内視鏡レンズ搭載のハイビジョンカメラで撮影した「昆虫が演じるドラマ」、とか。前にここで書いたブルーバック公演も注目を集めていた。・新技術とかビジネスモデルというより「発明」といえるようなアイデアが僕は大好きだ。最近はめったに見かけなくなってしまったけど、こういうところに来れば出会えるのである。
・西野つぐみさん&にしの公平さん率いるサイバーマンガドットコムの作品『う゛ぞぞぞ・ゾンビくん』のデモとトークショウを手伝わせてもらった。僕はこの制作に関わって、クリエーターが「楽しんで作る」ことがブロードバンド・コンテンツの成功のポイントだということに気が付いた。
・それからもいっこサービス。蒼井優さんの本誌未使用ショットです。
第59回
02年2月24日「デジタル少女のリアリティー」
・2月18日ぶんの日記からの続き。「美女ラボ」撮影本番だ。世田谷のハウススタジオの部屋を、蒼井さんのプライベート・ルームにできるだけ似せてセッティングした。
・カメラマンの松木さんはパソコンも使いこなす人で、意図をすごくよく理解してくださって助かった。ネットアイドルのポートレート……自分の部屋で自分一人で、カメラを自分に向けて撮り世界に発信するあの写真のリアリティーは、時代とメディアと少女達がたまたまシンクロして生まれているものだ。それをプロの手で狙って撮るという、とても難しい試み。
・まず、蒼井さんと、ノートパソコンでネットアイドルのページを見ながらいろいろな話をした。インターネットのこと。同世代の少女達のこと。そして、ネットアイドルという生き方について。
・それから、デジカメを一個、彼女に渡してしまった。「じゃ、後は自分で撮って」と。そして僕と松木さんはさっさと隣の部屋に移った。
・蒼井さんはリスのような顔でしばらくとまどっていたが、やがてカメラでいろいろなものを、そして自分を、撮り始める。ときどき照れくさそうに部屋の反対側の隅にいる僕や松木さんを見るが、僕たちはあえて無視して雑談をしている(どうでもいい話だが、松木さんと担当編集者の樋口さんと僕の3人は、徒歩数分圏内のご近所さんだということを知ったりして)。
・彼女がだんだん集中してくる。自分の姿を確認しながら撮ることができるデジタルカメラには、ある種の魔力があると僕は思う。彼女は歩き回ったり、窓を開けてみたり。床に座ったり、ソファに寝ころんでみたりしながら、撮る。撮る瞬間、フラッシュをたいてないのに表情が輝いているように見える。
・その頃になって、松木さんはすうっと立ち上がり、彼女に近付いた。しかしまだカメラを持っていない。彼女が撮りやすいように、そっと照明の具合や家具の配置を調整したりするだけ。
・それから1時間くらいが過ぎた頃。いつの間にか、僕も気付かなかったくらいのさりげなさで、松木さんもカメラを持っていた。そして、自分自身を撮り続ける彼女の姿を撮り始めていた。2種類のシャッター音が交錯する部屋は、とても不思議な雰囲気になっていく。解放された閉鎖空間というか。そこでごく自然な、彼女の表情。そういう状況が、ひきこもりつつ世界と接するネットアイドルのリアリティーに、繋がっていくかどうか。
・彼女は撮り続ける。松木さんも撮り続ける。そしてさらに1時間、経過。その瞬間を、僕は見ていた。彼女の瞳から突然ぼろぼろと、涙が流れ始めたのだ。僕は思わず立ち上がった。彼女がこっちを見た。夢を見ているような表情。窓から夕日が入り、部屋全体が、彼女が、彼女の涙が、金色に輝く。
02年2月25日「おつかれ様です」
・「美女ラボ」写真選びに、久しぶりにSPA!編集部を訪問(フジサンケイ村は地の果てにあるような気がしていたが大江戸線使えばうちの事務所から30分で行けるようになってた)。
・それからゲームコーナーの担当をしていたはるき氏が突然異動になったので(会社員としては出世コースというわけですね)、後任の大沢氏に引継ぎ紹介して頂いた。はるき氏はゲーム業界で人気急上昇中の名物編集者なので惜しい。
・最近、e定食のゲーム企画が注目されてることは、ネット上のゲーム系BBS等を見ていればよくわかる。これは氏のこだわりと努力によるところが大きいと思う。WebSPA!のゲームコーナーを今のこの形に仕上げたのも彼である。いなくなる人を褒めても何のメリットもないのでこのへんにしといて、大沢さんや他のスタッフの皆さんにはこの成果を受け継ぎ、さらに充実させて頂きたく期待します。ただ、はるき氏はここ(WebSPA!)で密かにゲームの評論とか続けたらどうでしょう。
第58回
02年2月26日「異色サッカーゲーム」
・エニックスでちょっと変わったサッカーゲームを見せてもらった。『日本代表選手になろう!』というタイトルから当然スポーツゲームかスポーツ系シミュレーションゲームかと思ったが、なんとサウンドノベル形式のアドベンチャーゲームだった。
・試合をしながら、画面上に交錯する言葉=「選手の思い」をすばやくつかまえる。「いけっ」とか「囲め!」とか。それが次のアクションの原動力となる。的確な、そして素早い判断によってゲームは勝ちパターンに入る、というわけ。小一時間程度プレイさせてもらったが、サッカーに興味のない僕でもかなりハマれそうだった(プレステ2対応、5月23日発売予定)。。
02年2月28日「日本映画史をアニメで」
・アニメ『千年女優』試写。往年のスター女優の回想が、彼女がかつて出演した様々な映画の名シーンに繋がっていく。「あの人が待っているから!」と叫びながら、ひたすら走る少女の姿が、記憶と映画と現実を串刺しにしていく。全体的に色味を抑えた緻密なアニメ画像が、全盛期の、世界にも注目されていた頃の日本映画の美しさをリプレイ&リニューアルしていく。
・青春映画、時代劇、怪獣映画……過去の様々な名画へのオマージュ・シーンが百出する。邦画の様式美を、若い今敏監督が研究しつくしているのは驚きだ。そしてアニメ的美少女のテイストを崩さずに実写映画的リアルな絵柄を極めていることも、成功の要因だと思う。
・オリジナリティーにこだわる人には揶揄されるかもしれないが、DJ的手法にもクリエイティビティーが確立している日本のアニメ界ならではの傑作だと思う。年配の映画人にも見せたいなあ。
02年3月6日「同じコージのよしみで」
・前出の講談社太田さんが、イラストレーター/漫画家の緒方剛志先生を紹介してくれた。『ブギーポップ』シリーズのイラストで知られてるあの人。若手だけどその世界では神とあがめられているお方だ。
・緒方さんがゲーム業界出身の人だということを僕は知らなかった。過去、いろんなところですれ違っていたみたいで、驚いた。超おたく編集者の太田さんと3人で、ゲームの昔話で深夜まで盛り上がってしまった。今ゲーム業界を舞台にした小説を書いているので、挿し絵をお願いしたら快諾して下さった。やったー。
・ところで太田さんが薦めてくれた『タイムスリップ森鴎外』(鯨統一郎/講談社ノベルズ)が面白かった。「十七人もの命を奪った」とここに書いとくだけで、このページにも検索客が増えそう。そのわけは……読んでみてこの本。
02年3月9日「バーチャル出演」
・『デジタル・スウィートホーム』という番組に出てくれと頼まれた。ユビキタス・コンピューティングをテーマにした特番(3月21日11:00~テレビ東京系OA予定)。
・スタッフは昔『PCランド』という番組を一緒に作っていたメンツだったので引き受けたかったんだけど、あいにくその収録日には別の仕事が入っていた。終わってからかけつけても、ちょっと間に合わない距離。ところが、別にスタジオに来なくてもいいと言う。裏技があるから、と。
・そして今日いよいよその裏技を実行してくれた。これが実に興味深い方法だった。撮影スタッフは、僕が別の仕事をしていた場所まで、合成用のブルーバックを持参してやって来たのだ。そしてその場にバーチャル・セットを急ごしらえしてくれちゃったのである。
・そこで撮った映像を、後でスタジオ映像と合成するわけだ。僕が他の出演者と一緒にスタジオにいるようような演出も可能らしい。