渡辺浩弐の日々是コージ中
第200回
2月6日「四次元カフェ、消える」
・ハウル城のデザインのもとになったと噂されるほどすごい内装のカフェ「クラシック」が遂に閉店。70年余りにわたる歴史に幕を閉じた。
・中野は再開発の計画もあり、これからずいぶん変わるみたいなので今ある良いところにはできるだけ今のうちに行っとこう。
2月7日「忘却とは許すことなり」
・『エターナル・サンシャイン』試写。別れた恋人の思い出をそっくり消してしまう「記憶消去オペレーション」の話。そっくりのドラマを『世にも奇妙な物語』で、やっていたっけ。ハイ・テクノロジーを仕掛けとして使うストーリーテリングについては、日本の方が先を行っていると思う。
・構成力はさすが天才脚本家カウフマン(@マルコヴィッチの穴)。新しい記憶から古い記憶へと溯っていく形で順に消していく。二人の物語が、時間を逆行して進んでいくわけだ。その映像から、恋人の姿が少しずつ、消えていく。そのもの悲しさ、寂しさったら、ない。
・記憶のタイムマシンとしての機能は、今後、脳がケータイ端末やネットと結びつくことによってもっともっとリアルになっていく。それは日本ではかなり加速している。例えば相手のデータをケータイのメモリーから消去するだけでスッキリしてしまえるなんて、すごくサイバーなことだと思いませんか?
2月8日「生産的に」
・『ゲームラボ』編集部の岩田さんと、ライターのジャンクハンター吉田さんと、ミーティング。誌面刷新(なんと編集長も代わるらしい)に伴い、書かせてもらっている連載コラムの見直しなど。
・ひきこもり、という言葉でくくられてしまってる人たちのパワーの行く末をシミュレートしてみよう、ということに。ネットに対峙し続けている人たちの、思考と嗜好の贅沢さはきっと中世の貴族を超えている。ここからルネッサンスが生まれる可能性はきっとあるはずだ。ただし漫然と待っていてもそれは難しいだろう。誌面から、あるムーブメントを刺激していくようなことができないだろうか。と、『ゲームラボ』にかなり生産的なメディアとしての期待をしてしまっているわけである、僕は。冗談ではない。
・ところで、この雑誌で吉田さんが以前やってた連載コラムがむしょうに面白かった。毎回、都会の「ゴミ」を拾い集めていくのだが、しまいには本当に人間の死体を拾ってしまうのだ。
2月9日「道理でトリップ@キノコ」
・外来種の問題はブラックバスだけではない。最近、クワガタムシやカブトムシの輸入・飼育が規制される動きが出てきていて、マニアを心配させている。
・専門的な昆虫館などに行かなくても、町中のショップで、外国産の巨大な甲虫を見られる&買えるようになって久しい。ヘラクレスオオカブトムシなどを小学生がどんどん買っていく。ところがかなりずさんな飼い方をする人も増えているらしく、飽きて逃がしてしまったりすると日本の生態系に影響を与える、というコメントである(もちろんこれはブラックバスのようにさんざん放った後の状況とは根本的に違うわけだが)。
・虫ブームはいい意味でも悪い意味でもセガ『ムシキング』のせい(おかげ)である。ここで、コンテンツメーカーとしてできることがヤマほどある。釣りと違ってこれは100%、モラル向上によって解決できることなのだ。こういう時にがんばるべきですよ、セガさん!
・ところでクワガタムシ飼育用の菌床にはものすごい勢いでキノコが生えてくるわけだが、食べてみたらこれがとてもおいしい。毎日腹一杯食べても余るほど生えるので主食にしていたら、手足がしびれ、倒れてしまった。調べてみるとこのキノコ、どうもあの「スギヒラタケ」と近い種のものらしい。
第199回
1月27日「孵卵な人」
・『iモードスタイル』編集部にて、松永真理さんと対談。iモードの開発者と思いこんでいたもので意気込んでいろいろマニアックな質問を用意していったのは失敗。実はiモードについてはビジネス展開以降を手がけられたということらしい。
・この人の話は知識でなくアイデアによって進んでいく。そこが才能なのだった。こういう技術があって、というところから、それをどんなインフラに乗せて、とか、どんなプログラムと組み合わせて、というふうに進むのではなく、こんな遊びができるかも、というところにいきなり跳ぶわけ。iモード以降もこの人が各界で重宝がられてる理由がわかった気がした。
・技術を実用に結びつけていく。そこには水と油を混ぜることに似た難しさがある。どんなに時間をかけてシェイクしても、混ざらないものは混ざらない。でも、そこにタマゴ(乳化剤)を入れることによって水と油は混ざり、マヨネーズはできあがる。松永さんはその、タマゴの役割ができる人だと思う。
・さてケータイ+ネット上のコンテンツとしては次は「声紋」分析技術がキーになる、という話で盛り上がり、すごいアイデアもいくつか飛び出したが、それは記事にしないように頼んでおいた。先回りして、急いで特許申請しておこうっと。
2月4日「ドッジブームの火付け役に……は、多分ならない」
・『ドッジボール』試写に。うひゃひゃ、こりゃ楽しい。人生崖っぷちのおっさん達がドッジボール大会に最後の夢をかけて……というわかりやすい設定。70年代のマッチョ映画をパロディー化して、さらにスポ根ものの味付けを効かせている。飛んでくるレンチを避けたりハイウェイを横断したりといった猛特訓、SMボンデージファッションでの試合、etc.etc,etc…書くも下らないギャグが延々と続く。
・ポップコーン食ってビール飲んでげらげら笑ったりぎやーぎゃーヤジとばしたりしつつ観たい映画。そういうことをしてるとマナー悪いと怒られるわけだが。日本でも映画館の入場料がせめて¥500くらいになったら、もっと気楽にもっとたくさんの映画を、劇場で見られるのになあと思う。
2月5日「どんどん輸入しよう」
・『ドッジボール』にヤられた脳でWWE行って来ましたよ。ポップコーン食ってビール飲んでげらげら笑いながらの観戦。サイコーっ。真剣にバカをやって、貫禄の域にまで達するってのは、豊かな時代をよほど長く続けてないとできないのだと思う。アメリカはこれからはバカを主要輸出産業にしていってもいいかもと少し思った。
第198回
1月24日「命がけの散歩」
・「Gファンタジー」編集部にて担当の熊さん、マンガ家の遠野先生と打ち合わせ。
・『プラトニックチェーン』では、現在の東京の面白さをきちんと捉えたいという狙いもある。それで最近は街をうろつくだけではなく、穴場探しをやっている。とりすました風景の皮を一枚はぐと、そこにとんでもない光景が現れることがあるのだ。
・立入禁止の場所にも、入れたら入ってみる。線路を這っていたら電車が上を通り過ぎていったり、下水道に潜り込んだのはいいけどマンホールの蓋が内側からは持ち上がらなくて閉じこめられてしまったり。と、命の危険もときどきある(良い子はマネしないように)。
・そんな感じで取り溜めた資料写真をスクリーンに投影しつつ、キービジュアルを設定していく。重要な場所には、遠野さんや熊さんも一緒に行ってみようという話にもなった。今後の成果に乞うご期待。
1月25日「ゾンビに人権はないので」
・『ハウス・オブ・ザ・デッド』試写。セガの同名ガン・シューティングゲームを映画にしたもの。日本発のコンテンツがいろいろな形で国際化していくのはうれしい。
・体は良いけど頭は悪い若者達が、ゾンビがうようよしてる孤島に遊びに行って……という典型的なパターン。ただしかつては弱いからこそ恐ろしかったゾンビも今となってはどんどん強くなっていくしかない、と『ドーンオブザデッド』の時にも書いたかな。この映画でもゾンビ達は走り回ったり飛んだり跳ねたりして、やがて普通の人間と見分けがつかなくなる。
・つまりゾンビものはもうホラーではなくアクション映画にしていくしかないわけだ。人間はまずいけれども人間の形をしたゾンビならどんなに残酷にどんなにたくさん殺しても構わない、というコード事情からゲーム業界に成立したジャンルが、ここで有効になってくるわけである。
・押し寄せてくるゾンビ達を各種銃器でひたすら虐殺しまくるシーンを、ゲームCGではなく実写で映像化する、という目的だけのために作られた映画として観るべきものだろう。そして本当に「怖い」タイプのゾンビ映画は、今後は日本ホラー界から出てくるような気がする。
1月26日「熱いシーンから」
・ギャルゲーのコンシューマー機移植でがんばっているアルケミスト社、浦野社長と会う。マニアックなキャラクターを、マンガとアニメの力をうまく使って大きく展開していく、そういう仕事が最近は多いようだ。今年から来年にかけて、インディーズシーンからブレイクする作品が続出しそうだ。作家としてはメジャーと同人の両輪で走るような活動スタイルもありかもしれない。
・それから彼が仕掛けている萌えキャラ「びんちょうたん」のガチャガチャ向け新アイテム等をいろいろ見せてもらった。新作はキャラクターと乗り物や着物が分離する仕様である(メーカーはユージンだ)。この世界の巧みはすごいレベルに達してる。今コレクションしとけば100年後にはすごい価値のものになってるかもね。
・浦野さんは「京ぽん」(話題になってるインターネット対応PHS)からホームページを更新していた。いいですねそれ。